大分県豊後高田市の夷(えびす)という地区は、あっとおどろくような景観が広がる。
国東半島中央部にある火山…両子山からの噴出物である凝灰角礫岩で造られた景観だ。中津市の耶馬渓に似ているので、夷耶馬(えびすやば)ともいわれる。このゴツゴツとした山は、その尾根を登り渡ることができる。切り立っているので危険な登山道だ。
この夷地区には、ほかにも不思議な景観があるので、それに付随するいくつかの伝承も残されている。
そのひとつが「西狩場の釣り鐘岩」だ。
釣り鐘狩場の伝承
西狩場という場所に、五柱明神(ごちゅうみょうじん:いつはしらみょうじん)という小さなお宮がある。このお宮本殿左側の岩壁に、釣り鐘のような形をした岩こぶがある。
これが「西狩場の釣り鐘岩」↓
釣り鐘にはこんな伝承がある。
夷(えびす)の奥、西狩り場には五柱明神というお宮がありました。本殿の左手には、釣り鐘をぶらさげたようなかっこうの岩こぶがありました。この釣鐘状の岩こぶには不思議な力がありました。
ある日、五柱大明神のすぐ下手にある松造(まつぞう)という者の家から火があがりました。晴天続きの上に風もあり、松造の家から隣家へと、またたくまに燃え移りました。
その時です。五柱大明神の岩の釣り鐘が、「ジャンジャン、ジャンジャン」と高く強く休むことなく大きな音で鳴り始めました。その音を聞いて、西狩り場の人はもちろん、隣村や横岳からも大勢の人々が駆けてきて、消火にあたり、大きな被害を出すことなく火を消し止めることができました。
それからのち、人々はこの岩の釣り鐘を大切に守り、お祭りもしているそうです。そして、西狩り場は、釣り鐘狩り場と呼ばれるようになったそうです。
五柱明神(ごちゅうみょうじん:いつはしらみょうじん)の場所
五柱明神の祀られるお宮は、ハジカミ山・尻付山のふもとにある。
現在地から「五柱明神」:Google マップ
まさに限界集落と呼ばれる場所だ。道路はどんどん狭くなり、車で行けるぎりぎりのところまでいくと、右手にみえてくる。両側には二つの民家がある。2016年9月現在、この二つの民家には人の気配はなかった。
五柱明神の庚申塔(こうしんとう)
道路わきに車を停めさせてもらい、お宮に向かう。鳥居や国東半島特有の造形をしている仁王像が迎えてくれる。鳥居も仁王像も小さなサイズだった。
社殿左側の岩壁に三つの石造物が祀られている。右側には二体の薬師如来像、中央が猿田彦大神の庚申塔(こうしんとう)、左側は祠。
高い場所に祀られていて詳細を調べられず、作られた時代は不詳。
もともとは、このコウシンさまを求めて、五柱明神のお宮までたどりついた。そこでたまたま釣り鐘岩にも出会えた。コウシンさまは、それぞれの土地の深い部分まで見せてくれる先導者だ。