日常生活の経験を情報源として活用し、それを知的創造のプロセスに組み込むことは、日々の生活をより豊かに、そして楽しくする可能性があると考えます。
日常生活を情報源として活用し、楽しむ
知的創造のプロセスにおいて「『問い』のないところに学びはない」 と述べられています(参照:知的戦闘力を高める 独学の技法.山口周.Kindle位置1277)。この「問い」は、必ずしも学術的なものである必要はなく、「日常生活の中で感じる素朴な疑問をメモする習慣(参照:外資系コンサルの知的生産術.山口周.Kindle位置2745)」 から始めることができるとされています。どのような「問い」であっても、「人間や世界をより深く理解するきっかけとなり、最終的にはビジネスや人生における学びや気づきにつながる可能性がある(参照:外資系コンサルの知的生産術.山口周.Kindle位置2781)」 からです。これは、日々の出来事や感情を単なる消費で終わらせず、自らの知的成長の糧とすることを示唆しています。
さらに、書籍を読む際に「共感できない情報や反感を覚える情報にもアンダーラインを引く(参照:アウトライナー実践入門.TAK.Kindle位置 931)」 ことが勧められています。そうした情報は自身の価値観や思考を映し出す「反射鏡」となり、より深い気づきにつながるからです。この考え方は、日常生活の中で感じる違和感や不快感を、自身の内面を掘り下げる「問い」として捉えることにも応用できます。「嫌いなもの」や「怒りを感じたこと」を深く考えることで、自身のパーソナリティや一番大事なものが何かを見出すというアプローチも、日常生活のネガティブな側面を、知的探求の出発点とすることの有効性を示しています(参照:知的戦闘力を高める 独学の技法.山口周.Kindle位置1716)。
この知的創造のプロセス自体が、生活に楽しさをもたらすことが示唆されています。村上春樹氏が「小説を書くことを仕事とは思っていないような気がします。それは楽しみであると同時に、やらなくてはならないことです(参照:村上さんのところ コンプリート版.村上春樹.Kindle位置967)」 と述べ、「小説を書くのって、視野を広げる遊びみたいなものですね(参照:村上さんのところ.村上春樹.Kindle位置1254)」 と語っているように、創造的な活動は、単なる義務を超えた「遊び」や「楽しみ」となると、考えられます。
また、物理的な整理が思考の解放感につながり、「手ぶらになると、断然身軽になります。そうすると気分もふわっと軽くなって、無性に歩きたくなる(参照:佐藤可士和の超整理術.佐藤 可士和.Kindle位置4)」 といった経験は、生活空間や持ち物の整理が、結果的に日々の楽しみや発想の促進に寄与することを示唆しています。脳を情報で満たした上で散歩に出るなど「微細な環境の変化」 を通じて発想を促すことも有効であり、これは日常生活の中での能動的な行動が知的生産につながることもありえるという示唆を与えてくれます(「超」創造法.野口悠紀雄.Kindle位置2089)。
混沌から秩序を見出すプロセス
仕事…とくに、人間関係は複雑で、まさに混沌に満ちあふれていると感じますが、この嫌な人間関係を学問的に分析し、体系的に理解しようと努めることで、そのなかに法則性や構造をみつけだし、ある程度、自分の中で整理された状態をつくりだすことができると考えます。そのためには、知的生産における「プロセッシング」…つまり、単に情報を集めるだけでなく、集めた情報を自分の中で整理し、分析し、時には組み合わせたり、新しい視点で見つめ直したりする一連の作業…この作業が重要であると考えます。得た情報を自分にとって意味のある知識やアイデアに変え、それを活用してより良い結果を生み出していってみるといいかもしれません。
情報の「量」や「質」だけでなく、「集めた情報から高度な洞察を得る能力、すなわち『プロセッシング』の能力が非常に重要」 と指摘されています。集めた情報は、知識としてそのままストックするだけでなく、それを「知恵」に変えるために、「抽象化・構造化して『示唆』や『洞察』を引き出す」 必要があります。(参照:アウトライナー実践入門 ~「書く・考える・生活する」創造的アウトライン・プロセッシングの技術~.Tak..Kindle位置1195,2939)(参照:数字のカラクリを見抜け! 学校では教わらなかったデータ分析術.吉本佳生.Kindle位置74,80,87,280)(参照:知的戦闘力を高める 独学の技法.山口周.Kindle位置342,441,472)
この思考の「情報化」は、頭の中で曖昧に考えていることをテキストに書き起こす「言語化」 を通じて行われ、思考回路が整理されていきます。佐藤可士和氏の整理術では、デザインとは「対象をきちんと整理して、本当に大切なもの、すなわち本質を導き出してかたちにすること」 であり、「思考を情報化すること」、そして「言語化すること」 が最も重要であると述べられています。これは、混沌とした状況から本質を見出し、明確な形にするための根本的なプロセスだと考えます。(参照:外資系コンサルの知的生産術.山口周.Kindle位置999,1015)(参照:佐藤可士和の超整理術.佐藤可士和.Kindle位置4)
さらに、(参照:佐藤可士和の超整理術.佐藤可士和.Kindle位置4)(参照:外資系コンサルの知的生産術.山口周.Kindle位置1037,1045, 1053)では、「長く考えるよりも、短く何度も考える方が突破口を見つけやすい」、「思考の総量は『考える時間』の量よりも『考える回数』の量によって決まる」 といった思考の効率化について述べられています。そして、「論理」と「創造」という二つのモードをアコーディオンのように伸縮させることで、差別的で合理的な解を生み出すことができ、これにより特定の局面において他者と比較してより良い意思決定が可能になり、「知的戦闘力」の向上に繋がることが指摘されています。これは、混沌とした状況下でも、柔軟な思考と行動を通じて、最適な解を見つけ出す能力を高めることにつながると考えます。(参照:外資系コンサルの知的生産術.山口周.Kindle位置1104)
人の行動の分析と理解
人の行動や心理は、「リベラルアーツ」より学ぶことができると考えられます。「リベラルアーツ」は「自由の技術」 であり、その真髄は、誰もが疑問を感じることなく信じ切っている前提や枠組みを「問う」「疑う」ための技術にあります。(参照:知的戦闘力を高める 独学の技法.山口周.Kindle位置1992,1998,2039)
特に、「心理学や脳科学を学ぶというのは、人間というシステムがしばしばおかしてしまうエラーについて、『エラーの出方』のパターンを学ぶということにほかなりません」 と述べられています。(参照:知的戦闘力を高める 独学の技法.山口周.Kindle位置2284,2291,2425)このような知識は「人間や社会の振る舞いをより深く知るために、とても有用な情報となります」。(参照:知的戦闘力を高める 独学の技法.山口周.Kindle位置2442,2463,2467,2471,2474)これは、個人の行動が、どのような心理的背景から生じるのかを分析する手助けになると考えられます。
また、村上春樹氏は「ロジックという座標軸を使ってものを考えながら、ストーリーという座標軸をそこに導入することによって、ものごとをより立体的に把握することができる」 と述べています。(参照:村上さんのところ コンプリート版.村上春樹.Kindle位置50304,50305,50629,50759)これは、単に事実や論理だけでなく、その裏にある人間の感情や意図、経験といった「物語」の側面を理解することで、より深い洞察が得られることを示唆しています。現代社会は「あまりにも情報が多すぎるし、それもあらかじめプロセスされた情報が多すぎます。知らないうちに『こう考えなさい』というマニュアル込みの情報を僕らは詰め込まれているのかもしれません」 とも指摘されており、そのような中で「どこまでが出来合いの意見で、どこからが自分自身の意見か」 を見極めるためにも、多角的な視点、特に人間的な側面からの理解が重要になります。(参照:村上さんのところ コンプリート版.村上春樹.Kindle位置50173)
知的生産を支えるツールとAIの活用
NotebookLMは、まさに「神業」を成し遂げてくれます。このような生成AIは、情報源との対話を可能にしてくれます。さらには、情報源にないものは「わからない」と回答してくれる機能は、知的生産におけるツールが果たすべき役割と合致しています。
アウトライナーの活用
未完成の文章や、思いつきの断片を一つの巨大なアウトラインに集約し、それらを自由に移動、分割、結合することでアイデアを「発酵」させ、組み立てていくことができます。これにより、思考の断片が「ファイルの壁」から解放され、常に目に入ることで他の断片との関連性の中で成長しやすくなります。
カードシステムの利用
知識を記憶するためではなく「忘れるため」にカードに書き記し、分類・貯蔵するだけでなく、カードを組み替えたり並べ替えたりする「操作」を通じて知的生産を行うことが特徴です。この外部での操作は、目に見えない脳細胞の働きを助け、一見無関係な知識間に思いがけない関連性を見出すことを可能にします。
Googleドキュメントを活用した「超」メモシステムの構築
デジタルツールにおいては、クラウドへの保存と多層的なリンク構造を活用することで、大量のファイルを迅速に管理し、目的の情報に数秒でアクセスできるシステムが利用可能です。(参照:「超」創造法 生成AIで知的活動はどう変わる?.野口悠紀雄.Kindle位置1920,1924,1930,1933,1945,1962,1968,1970,1975,1985,1986,1990)これにより、情報が「埋没」することなく、いつでも参照可能となり、思考の断片が常に目に触れることで、他の断片との関連性の中で成長しやすくなります。(参照:アウトライナー実践入門.Tak..Kindle位置2450,2556,2558,2561,2572)
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これらのツールは、情報の一元管理、流動的な整理、そして新たな組み合わせの発見を支援することで、思考のプロセスを加速させてくれると考えます。
ただし、生成AIは資料の翻訳や要約、文章校正といった周辺作業を高速化する一方で、創造的な活動や正確なデータ分析においては限界があると指摘されています。特にデータ分析においては、AIに頼るのではなく、「政府や国際機関などの『一次情報源』からデータを収集し、自ら計算・確認する」 姿勢が重要だとされています。(参照:「超」創造法 生成AIで知的活動はどう変わる?.野口悠紀雄.Kindle位置57,611,629)
日常生活の経験は、自らの「問い」を立て、それを思考の「情報化」と「プロセッシング」によって深掘りし、既存の知識と組み合わせることで、まさに図書館を活用するような情報源になると考えます。このような、能動的な知的創造のプロセスは、日々の混沌に秩序をもたらし、人の行動をより深く理解するための洞察を与えてくれると考えます。その結果、生きていくこと、そのものの質を高め、日常生活のなかでの楽しみを増やすことにつながるのではないかと考えます。