わたしにとって、読書とメモは、単なる情報収集や記録だけにとどまらない、趣味的な一面ももっています。読書とメモが、どのように思考を深め、新たなアイデアを生み出し、日々の仕事や生活へとつなげてゆけるのかを考え続けています。読書、仕事、日常のいろいろな体験から得られる知識やアイデアを、どうやって捉え、どうやって活かしていくか?
メモをとる大きな目的の一つは、考えていることを深くほりさげ、新しい考え方をだしていくことにあると考えます。本を読む際、ただ内容を追うのではなく、「読書を通じて何を考えたか」をより濃く残すことが大事だと考えます。
読書中にメモを取ることで、著者の伝えたいことや、著者の問題意識を深くほりさげて読み、自分自身が考えていることと融和させていくことで、著者との対話が生まれると考えます。これにより、著者により書かれた内容を理解すること以上に、能動的・主体的な読みかたができるようになります。
頭のなかで、もやもやとしてまとまりのない考えは、いろんな方向へと拡散してしまいがちです。これらを言語化することで、考えていることが整理されて、新しい考えかたが生まれるようです。手書きであれ、音声入力であれ、自分の考えを文章のかたちで固定することで、考えていることの問題に焦点をあて、壁打ちすることができて新しい考えかたが自分ひとりでもできるようになります(参照:『|人工知能が 助けてくれる!
話すだけで書ける 究極の文章法』(野口悠紀雄著))。
メモは一度とってからも、さらに適切に活用し、時間をかけ熟成させ続けることで、自分にとっての財産となるように感じます。
社会学者のニクラス・ルーマン(Niklas Luhmann)が考えたツェッテルカステン(Zettelkasten)は、ひとつひとつのメモが独立したアイデアを持ち、それらが相互にリンクすることで有機的に知識が結びつくシステムです。これにより、感情や既存の信念に囚われず客観的に情報を整理し、偶発的な発見や多角的な視点の取り込みを促進します(参照:『メモをとれば財産になる』(ズンク・アーレンス著))。
読書やメモを通じて、認知心理学における「スキーマ」(既存の知識の枠組み)が形成されます。スキーマが構築されると、物事の理解が促進され、新しい情報でも効率的に理解できるようになるため、記憶や認知の負荷が軽減されます。
メモは「変更管理を行い、長く活用し続けるもの」であり、情報が蓄積されるほど価値が上がると考えます。毎日の生活の中で疑問に思ったことや、引っかかりをすぐにメモに残してゆく「思考実験」を繰り返すことで、仕事における改善点にも気づきやすくなると考えます。
アウトプットと問題解決の促進
メモを取ることは、単に記録する・記憶することではなく、そのメモをつかって何を生み出すのか、何を考えだすか…という、最終的なアウトプットを意識した「加工・生成」のプロセスです。
文章を書くための準備
メモは、文章を書く際の準備に役立つように感じます。特に、仕事の資料をつくるといった場合、まず紙の上で目的、メッセージ、構成までを「手書き」で考える。これにより、考えが完全に固まってからデジタルツールに向かうことができ、手戻りを減らし効率が高まるように感じます。文章を書いていくときに、なかなか構成が定まらないような場合、気になった文章を書き写す「メモからの引用」が、円滑な文章作成の手伝いをしてくれます。
問題解決への貢献
メモは、自分自身の時間や労働が何に使われたかを客観的にみつめる手助けをしてくれます。生産性の低い活動を減らす手助けをしてくれます。メモをすることで、考えていることを整理し、問題に集中することで、仕事を着実にすすめる手助けをしてくれます。
自己理解と精神的な安定
メモは、自分自身との対話のツールとしても機能し、日々の体調や感情、出来事を自由に書き出すことで、心の中のモヤモヤを整理し、自己を深く理解することができます。ジャーナリング(書く瞑想)は、不安を解消し、頭の中を整理する効果があるとされています。他人に言われて傷ついた言葉を文字にすることで、心の中でくすぶり続ける感情を吐き出し、何に対して不快感が継続しているのか…理解するためのきっかけとなることがあります。
メモの手段と継続のための工夫
メモを取るときに大事なのは、自分自身の目的と状況に合わせて一番いい方法を見つけ、続けていくことだと考えます。
手書きの利点としては、「書ける量が限られている」ため自然と頭の中でまとまる、メモのスピードが遅くなることで考える余裕が生まれる、といった点があります。また、「創造性を高めるために、『手書き』は避けられない」という考えかたもあり、メモすることは、考えることと表現することが一体化した行為として捉えられています。手書きは脳を活性化するとも言われています。
メモをデジタルでとる利点としては以下の点が考えられます。KindleのハイライトやGoogle Keepなどのデジタルツールは、情報の検索性や保存性に優れ、一元管理をシンプルかつ効率的に行えます。NotebookLMやGeminiのようなAIアシスタントも、テキスト生成や要約、アイデア出しの補助として活用できます。スマートフォンをつかった音声入力は、いつでもどこでも気軽にメモを取れるため、考えていることを文章に固定しやすくします。
メモをするとき、メモをする方法には決まったルールはないと考え、いちばん大事なのは「自分にとって価値のあるものを生み出すこと」という目的意識を持つことだと考えます。気軽に始められる方法を選んで、日常の中に組み込めるように工夫します。例えば、読書では、「読了する」ことではなく「読書メモをつくる」ことを目的にすることで、読書へのアプローチが変わり、自分にとって役立つ知恵や言葉を吸収しやすくなると考えます。また、メモを書くこと自体を楽しむこと、そして「あとから読み返すのが楽しいノート」をつくることが、継続するための大事な部分になると考えます。
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メモをとることは、単なる情報の記録ではなく、思考を深く掘り下げ、新しいアイデアをみつけだし、吸収した知識を「自分の財産」として積み重ねる行為だと考えます。考えを書き出すことで、自分自身との対話をおこない、精神的な安定と自己理解を深める手助けもしてくれると考えます。手書き、デジタル、音声入力など…目的と状況に応じて、メモの取りかたを使い分けながら、継続的にメモを取る習慣は、毎日の生活を楽しくさせてくれる手助けになると考えます。