日々の”楽しい”をみつけるブログ

福岡県在住。九州北部を中心に史跡を巡っています。巡った場所は、各記事に座標値として載せています。座標値をGoogle MapやWEB版地理院地図の検索窓にコピペして検索すると、ピンポイントで場所が表示されます。参考にされてください。

大きな草鞋(わらじ)は何を目的につくられた? 広島県尾道市西久保町

2017年1月に、広島県の尾道市を訪問しました。その際に撮った一枚が下の写真です。摩尼山(まにさん)西國寺(さいこくじ)の山門で、山門の前には多くの草鞋(わらじ)が奉納されています。なかでも目にひくのが2mもの大きさの草鞋です。

 

場所:広島県尾道市西久保町

座標値:34.414483,133.203656


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この草鞋は、どんな理由でこんなに大きなものにする必要があったのでしょう。ネットで調べてみるとすぐにわかります。

 

安置されている2体の仁王(金剛力士像)の健脚にちなんで架けられたもので、草履の大きさは2mもあります。仁王さんのたくましい足にあやかろうと奉納されてきた、坂の多い尾道ならではの健脚祈願です。参照

 

書籍『民間信仰(桜井徳太郎著)』では、西國寺の巨大草鞋とは違う目的で、むかしは大きな草鞋を集落の入口に吊るしていたことが紹介されています。

 

われわれが、田舎を歩き回っているとき、よく部落の入口に、巨大な草履や草鞋の吊されているのを見かけることがある。これは、流行病などが部落内に侵入するのを防ぐための呪いだといわれる。未開人にとっての病災は、すべて悪神悪霊が持ちこむものと観念されていた。そうした悪神は、この巨大な履物をみてその威力に驚歎し、退散してしまう。『民間信仰(桜井徳太郎著)』P.37

 

この文章は、塞の神(さいのかみ)について記述されている箇所です。塞の神は、集落の境などに祀られ、集落へ邪霊が侵入するのをふせぐために祀られてきた神様です。塞(さい)というのは土を盛って外敵の侵入を防ぐ砦(さい)を意味する言葉です。

 

旅から郷里に帰る人を、国境や村境などで出迎えて食べものなどを差し入れていたそうです。そのような行為を「サカムカエ(境迎え)」と呼びました参照。サカムカエは、その名前のとおり集落の中ではなく、集落どうしの境界で行われており、「サエ(境界)」というのが日本人にとって重要な場所であったことが同書*1には示されています。

 

集落の入口に吊るされてきた巨大な草鞋も、塞の神とおなじ効用があると信じられてきたのでしょう。

 

2022年現在では、九州地方の田舎をまわっていても、さすがに巨大な草鞋(わらじ)や草履(ぞうり)を吊るしている光景はみたことはありません。尾道市で拝見した、この巨大草鞋がはじめてです。つくられた目的は、”健脚祈願”であり、”悪疫退散”とは異なりますが、文章の中のものと現物とが結び付いた、私にとってはありがたい草鞋です。もしかしたら、西國寺の山門に吊るされている、この巨大草鞋も「悪疫退散」の願いも込められているのかもしれません。
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