福岡県遠賀郡岡垣町大字波津に、大年神社が鎮座しています。「岡垣サンリーアイ図書館」で、岡垣町史を拝読していたとき、波津という場所に鎮座する大年神社を確認できました。この神社には参拝したことがなく、行ってみたいと思い参拝してみました。サンリーアイ図書館から、大年神社まで、車で10分ほどの距離です。
場所:福岡県遠賀郡岡垣町大字波津
座標値:33.887241,130.564195
神社の鎮座する波津という地名には、神功皇后の伝説が関連付けられています。かつてこの地に神功皇后が大小の旗を立てられたことから「大旗」「小旗」という小字が残り、もともとは「旗の浦」と呼ばれていました。それが転じて「波津の浦」になったという説があります。
大年神社は、元慶四年(880年)には朝廷から神階(神の位)を授けられており、当時の筑前守であった上毛野朝臣澤が勅使として幣帛*1を奉ったとされています。これは、大年神社が当時、国家的に見ても重要な神社の一つとして認識されていたことを示す出来事だと考えられます。
大年神社の祭神
大年神社の主祭神は、大年神、素盞嗚尊、そして海童神であると記されています*2。
海童神海童神は、あまり聞き慣れない神様ですが、どのような神様なのでしょう?福岡県神社庁関連のデータベースでは、海童神は一般に海の神(綿津見神)として理解されています。一方、個人研究サイトである産土神名帳 は河童神を挙げています。河童は民俗的な水中の精霊であり、歴史的に重要な神社で主祭神として祀られることは比較的稀です。
この「海童神」と「河童神」の間の神名の差異は、「海童神」がより公式、または現行の呼称である可能性を示唆しています。これは、その情報源である福岡県神社庁関連のデータベースと、沿岸の神社としての適合性を考慮すると比較的、妥当であることがしめされています。神社が波津の浦に面し、波津漁港に近い*3という立地を考えれば、「海童神」(海の神)の奉斎*4が適切だと考えられます。「河童神」は、古い地方の呼称、民俗的な解釈の可能性が考えられます。久留米市の資料では、広域における水神(乙姫、水罔象女)の文脈で「河童」について述べられていて、河童のイメージが地域の水神信仰の一部であることを示唆していますが、これが当神社の主祭神であることを直接裏付けるものではないと考えます。
大年神社の由緒
神功皇后が三韓征討から帰られた際に、この波津の浦で年を越し、新年を迎えられたことから「大年神社」と称されるようになったといわれています。この伝承にちなみ、鳥居の額には「歳越神」とも記されています。大年神社に祭られている大年神は、素盞嗚尊と神大市姫の子です*5。
国家史書である『三代実録』、『筑前國續風土記』に、大年神社の名前が記されています。
『三代実録』では、元慶4年3月22日(西暦880年)の条項に、「筑前国正六位上大年神従五位下とあり」との記述があります 。これは、筑前国の神である大年神が正六位上から従五位下に昇叙*6されたことを意味します。平安時代の朝廷によるこのような神階の授与(授位)は、当該神社が当時すでに確立された地位と重要性を有していたことを示す公式な認識でした。さらに、この際の勅使として筑前守上毛野朝臣澤が「日幣勤之云々」(幣帛*7を奉った)と記されていて 、中央政府との直接的な関与と公式な手続きの存在を裏付けています。『三代実録*8』巻三十二には、澤が散位従五位上から筑前守に任じられたとあり、勅使としての役割を裏付けるものです *9*10。
『筑前國續風土記』にも、神社の歴史的存在と西暦880年の授位の事実を裏付けるものとして言及されています*11 *12。
大年神社付近の地質
大年神社が鎮座する波津の地は、湯川山の北東部に位置しており、このあたりは地質図naviで確認すると、中生代 前期白亜紀 アプチアン期〜アルビアン期という、約1億年以上前に形成された岩石で構成されています。地質図naviのオレンジ色で示された部分は、安山岩・玄武岩質安山岩 溶岩・火砕岩という岩石で構成されており、これらは、過去にこの地域で活発な火山活動があったことを示しています。
祭礼日
七月十五日:祇園祭
九月十五日:放生会
昭和二十九年ころまでは、女性が主役になる献饌*13の祭礼が旧暦八月十五日にあった*14。
境内社
岡垣町史P.1018には恵比須神社、大旗神社のみが記載されています。いっぽうで、サイト「Omairi」には”貴船神社(かつて波津の大歳神社境内にも貴船社があった)*15”と紹介されています。
また、岡垣町史には、”境内に神池(神の池、千寿池)がある。一間四方、1メートル足らずの深さしかないが、水は非常に清く夏冬ともかれることなく、病気の人が飲むと霊験があるといわれていた。昔、神功皇后が矢じりの先でつつかれたら清水がわきだしたと言い伝えている。”とあります。
*1:神への捧げ物
*2:岡垣町史P.1017
*3:
https://ameblo.jp/sen23ka/entry-12756313657.html
*4:神仏を慎んで祀ること
*5:岡垣町史P.1017‐1018
*6:上級の官位に叙せられること
*7:神社などで神に奉献するものの総称
*8:『日本三代実録』の略称
*9:
https://jinja-net.jp/jinja-all/jsearch3all.php?jinjya=7616
*10:
https://jinmyocho.jpn.org/jinja/02_fukuoka_kitakyusyu/0350/0350.html
*11:
https://jinmyocho.jpn.org/jinja/02_fukuoka_kitakyusyu/0350/0350.html
*12:
https://jinja-net.jp/jinja-all/jsearch3all.php?jinjya=7616
*13:神様や仏様、あるいは目上の方に対して、敬意を込めて飲食物などをお供えすること
*14:岡垣町史P.1017‐1018
*15: