『遠賀川: 流域の文化誌(香月靖晴著)』P.46~P.47に掲載されている「トリ庚申石塔関係一覧表」を拝読していて、福岡県飯塚市の津島という地区に「トリ庚申」のひとつがまつられているということを知り、いってみることにしました。
「トリ庚申」とは、庚申塔のなかでもめずらしいもので、刻まれている文字の意味がよくわかっていない庚申塔のことです。「トリ庚申」という名前のとおり、「取理」とか「取鳥」とか「取タリ」とか「トツタリ」というふうに、庚申塔に刻まれる文字に「トリ」と読める文字がみられます。
なぜ「トリ」と読める文字が庚申塔にきざまれているのかは、はっきりとした理由は不明です。『遠賀川: 流域の文化誌(香月靖晴著)』P.44~45において、いくつかの説が挙げられています。
”利(り)を多く執(と)る”という想いから「執多利(トッタリ)」という文字が生じ、そこから「取鳥」「取里」となったという説もあります。今回、ご紹介する「トリ庚申」には”祈願成就 丑歳女”という文字がきざまれています。当時は、庚申講に入ることが許されていなかった女性の「女」という文字が確認できます。
当時、生きていた女性のなんらかの切実な想いが、この庚申塔から感じられるようです。
碑面 | 碑面(建立年) |
---|---|
日向国取足庚申 | 祈願成就 丑歳女 |
場所 | 座標値 |
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福岡県飯塚市津島 | 33.671575,130.682692 |
この庚申塔があるのが貴船神社です。
砂岩でできているようで、もう表面の文字は読めなくなってきています。かろうじて取足庚申という文字が確認できます。わたしには確認できませんでしたが、書籍を参照すると、前記のように「祈願成就 丑歳女」という文字もきざまれているようです。
この庚申塔は、おなじように並べられている庚申塔とくらべ、自然石にただ文字をきざんでいる質素なつくりをしています。
庚申講に参加することが難しかった女性の庚申塔であるため、秘密裡につくられたのかもしれません。