温かい日がつづいていたのに急に寒くなったり、逆に寒い日がつづいていたのに初夏のような気温になって、また急に寒くなって霜がおりたり…と自然環境の変化は激しく、自然のなかで生きている植物にとっても厳しい面もあります。
雑草は抜いても抜いても、すぐに芽をだすたくましいイメージが私にはあるのですが、雑草について調べてみると、意外に、とても繊細な生存戦略をもっていることがわかります。
その生存戦略のひとつに発芽のタイミングがあります。雑草といっても、チャンスがあれば「よしきた!」と、やみくもに土から芽をだして出芽しているわけではないようです。
雑草はなぜそこに生えているのか (ちくまプリマー新書)Kindle位置番号352を読むと、雑草が種子から芽をだす発芽には以下のような要素が必要だと説明されています。
【雑草の発芽に必要な要素】
①休眠
②水
③酸素
④温度
⑤光
①の休眠とはなんなのでしょう。どうして、発芽をするには休眠をする必要があるのでしょう。
【休眠】とは【すぐには芽をださない】という戦略
例えば雑草の種子が秋に熟して地面におちたとします。やった!とばかりにすぐに出芽してしまうと、厳しい冬の寒さですぐに死んでしまいます。そのために雑草をはじめとした野生の植物は、種子が熟してもすぐには芽をださない仕組みをもっています※1 Kindle位置番号361。これを一次休眠とか内生(ないせい)休眠といいます。
一次休眠は「いまなら芽をだしてもだいじょうぶ」というタイミングを待つための休眠です。その タイミングとは具体的にはどんな条件がそろったときなのでしょう?もういちど【雑草の発芽に必要な要素】をよみなおすと…
【雑草の発芽に必要な要素】
①休眠
②水
③酸素
④温度
⑤光
…です。①の休眠とはべつの②~⑤の4つの要素が、適当な条件になったときが発芽のタイミングです。
このタイミングが一時的にそろって、「もうそろそろいいかな?」と、雑草の種子がいちど休眠状態からさめても、発芽によい条件がつづかなかった場合、また休眠状態に入ることがあります。これを二次休眠(誘導休眠)といいます参照。
一次休眠と二次休眠のちがい
種子が地面に落ちた状態→すでに一次休眠状態
いちど一次休眠から覚醒したけど発芽ができずまた休眠→二次休眠
…と、とらえるとよさそうです。
この二次休眠とは別に、雑草の種子が一次休眠からさめたけど、休眠はせずに発芽がおさえられている状態にあることを環境休眠といいます。”休眠”という文字は名前にはいっていますが、実質は休眠していません。
休眠【種子】の種類 参照
inpate dormancy(一次休眠)
induced dormancy(二次休眠)
enforced dormancy(環境休眠)
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ここまでのまとめ
以上のように雑草の種子は一次休眠したあと、適切なタイミングをみはからって発芽をします。運悪くタイミングがあわなければ、二次休眠、環境休眠をして、またさらに適切な発芽のタイミングをみつけるのですね。
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休眠後のタイミング4要素
ふたたび発芽に必要な要素をみなおしてみると以下のとおりです。
【雑草の発芽に必要な要素】
①休眠
②水
③酸素
④温度
⑤光
②~⑤の要素について、具体的にどんな条件なのか、みていってみます。
②水(発芽に必要な要素)
じゅうぶんな水があれば代謝が活性化され、発芽がうながされます。のちに、発芽に必要な要素として”光”についてご紹介しますが、植物が光を感知する物質として”フィトクロム”というものがあります。このフィトクロムが活性するには一定以上の水を含む必要があります。
③酸素(発芽に必要な要素)
一定範囲内の酸素濃度で発芽する植物、低酸素濃度で発芽する植物(例:水田の雑草であるコナギ)があります。コナギの場合は無酸素状態に置かれた種子ほどよく発芽する、という性質があるそうです参照。
④温度(発芽に必要な要素)
温帯地域:20-25℃
熱帯地域:30-35℃
…など植物によって発芽に必要な温度帯があります参照。また、昼夜の気温変化が発芽の条件として必要な植物もあります。
⑤光(発芽に必要な要素)
植物全体の約70%の種子が、光を発芽の条件として必要とします(参照:Wikipedia-発芽-光)。植物の種子には、赤色の光(R)を吸収すると活性化するタンパク質が含まれています。このタンパク質の作用によって発芽がうながされます。そのタンパク質は”フィトクロム”と呼ばれます。
逆に、フィトクロムは遠赤色光(FR)を吸収すると活性がなくなり、発芽ができなくなります。
どうしてこんなしくみがあるのかというと、種子のうわっている周囲にすでに植物があって日陰ができていると、せっかく発芽しても光を勝ち取ることができず死んでしまうからです。
赤色光があるということは、周囲に光をさえぎるものがないということがわかり、安心して発芽することができるということがわかります。
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これまでみたように、雑草の種子は①から⑤のような条件がそろって、はじめて発芽します。
【雑草の発芽に必要な要素】
①休眠
②水
③酸素
④温度
⑤光
種類のちがう雑草であれば、このような条件がそれぞれ異なるので、発芽するタイミングが異なることが予想されます。
雑草の種子には多様性がある
雑草のすごいところは、同じ種類の雑草の、同じ種子であってもいっせいに発芽するのではなく、時期をずらして発芽するといいます。その例としてオナモミがあげられています(参照:※1 Kindle位置番号411)
オナモミの実のなかには2つの種子が入っています。ひとつは長い種子で早めに発芽するタイプ、もうひとつは短い種子で遅めに発芽するタイプです。
自然の条件によって、早く発芽したほうが良いか、遅く発芽したほうが良いかは変わってきます。どちらのタイプの種子が生き残るかは、そのときの自然の条件で変わります。だからあえて2タイプの種子を、オナモミは用意しているのですね。
このオナモミの例のように、わざと発芽をずらして、一斉に発芽させないような戦略を雑草はとっています。一斉に発芽してしまうと、条件が悪ければ一斉に死んでしまう可能性が高くなるからです。
雑草は、このようにできるだけ「発芽がそろわないようにしている(不斉一発生;ふせいいつはっせい)」のですね。
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まとめ
雑草はざっくりいうと…
・発芽する条件
・種子の多様性
…という2つの特徴をもち、いろんな雑草がわざとばらばらに発芽して、全滅する可能性を低くしていると考えられます。鋤(す)きこまれて綺麗になった土地でも、その土のなかには膨大な量の雑草の種子が埋まっているようです。それらの種子が以上のような複数・複雑なしくみを経由して発芽のタイミングをねらっているのですね。
やってもやっても終わらない庭の草むしりが厄介なのは、こんな理由からなのですね。