生前に、死後の冥福(めいふく)を願う「逆修供養」という考えがあります(参照)。その逆修供養のためにたてた板碑が、熊本県水俣市にあるという情報を得て、行ってみることにしました。
場所は、熊本県水俣市の袋という地区です。水俣市を南北に走る交通量の多い国道3号線から、東へ少し入りこんだ場所に時常の板碑は祀られています。
場所:熊本県水俣市袋
座標値:32.173622,130.384525
こちら↓が時常の板碑です。板碑は石祠のなかに入れられています。
板碑の表面は風化により、ほとんど何が刻まれているのか判別することができませんでした。
近くにある案内板には、この板碑に刻まれる像や文字の説明が丁寧になされています。刻まれている文字は以下のようなものです。
妙金
謹奉彫刻地蔵尊容意趣者経日
現世安穏 後生善處
以道受楽 亦得聞法故也
大願主 定蔵院朝全
干時長享三年巳酉九月廿四日
作者比丘安修
敬白
元号が「長享三年」ということなので、西暦1489年ととても古い板碑であることがわかります。また願主が定蔵院の朝全で、板碑をつくったのが安修という比丘であったことがわかります。
そして、これらの文字以外に、地蔵菩薩も刻まれているそうです。地蔵菩薩と上記の銘文の説明が、同看板に以下のように紹介されていました。要点を箇条書きで記していきます。
時堂の板碑
・記年銘のある石造物としては市内最古のもの
・板碑の中央には円相内に地蔵尊の種子「力」が刻まれる
・「力」の下に蓮華座の上にたつ地蔵が刻まれる
・地蔵の両側に銘文がある
銘文の説明
法華経をよく理解し、信じ実行したものは現世で安らかな生活ができ、次の世においても安穏な生き方ができる。またそこで再び修行を行うことにより仏法のレールにのって生きることができ楽を受ける
板碑に刻まれる地蔵尊の説明
・地蔵は二重線で表現された円光背を背負う
・地蔵は右肩に錫杖(しゃくじょう)をかたげる
・衣は向かって右側にたなびく
・宝珠をもった右手が胸元に置かれる
↓こちらは時堂の板碑への入口を写したものです。農道脇のちょっとした広場になっており、広場の中央には大樹がたっています。大樹の根元に今回ご紹介した板碑が祀られていました。また広場奥には木造の地蔵尊が2体祀られていました。
水俣市の史跡をさがしてはみたものの、この板碑と水俣城跡以外に、めぼしい史跡がなかなか見つかりませんでした。古い街並みが残る町なので、町史や市史などを参考にすると、ほかにも史跡が見つかりそうな感じがします。