体の前に太鼓をかつぎ、背中には長さ2mほどの御幣(ごへい)を背負っている人たち。これは山野の楽と呼ばれる民俗芸能の恰好です。
山野の楽は、2018年では9月22日(土)と23日(日)に、福岡県の嘉麻市山野で開かれました。太鼓芸能の楽は、とても珍しいらしく、福岡県北西部(筑前国)では山野の楽だけで行なわれるようです。
「遠賀川 流域の文化誌」P230に、山野の楽について以下のように紹介されています。
この芸能は「山野ン楽」といわれ、毎年秋分の日に鎮守神若八幡神社に奉納される。楽方は十二人、赫熊を頭にかぶり、藍と白を交互に染めた手貫(袖)と脚絆を着け、ヘラの皮で作った腰蓑を巻き、白足袋、わらじがけである。
たすきは藍地に白で扇形の梅模様に松と竹をあしらったものを締める。胸には径30センチ位の太鼓を横にして結びつけ、背には長さ二メートル位の御幣を背負う(遠賀川 流域の文化誌P230)
私が山野の楽を観にいったのが二日目の9月23日(日)です。この日は14時から嘉麻市山野の集落内を一行が練り歩きまわりました。その後、15時より若八幡神社(座標値:33.6114366,130.7109349)の境内で、本楽がはじまりました。
豊前の楽が通常”円”になって楽を行なうのに対して、山野の楽は”二列”になって楽を行なうのだそうです。楽では前後左右に動いたり…
体を屈伸させたり、グッとしゃがんだりと、すばやい動きではないものの、ゆっくりとした大きな動きの楽でした。
この楽が奉納される山野の若八幡神社は、大分県の宇佐神宮から勧請されたといいます(遠賀川 流域の文化誌P231)。山野の楽の歌楽では以下のような歌詞が歌われるそうです。
一、イヨ 古(いにしえ) 天の岩戸に神遊び神遊び
二、イヨ 古 神の子どもに楽をせよ楽をせよ
三、イヨ 神々の楽をそろえて面白や面白や
四、イヨ 世の楽を聞けば則ち法(のり)の声法の声
五、イヨ 世の中は楽で治まる世の中は世の中は
一から五の歌詞のあとには「ウンサトリノエントカヤ」…つまり「宇佐の通りの宴」という言葉が続くそうです。
山野は鎌倉・室町時代には、宇佐八幡宮の拠点のひとつであったそうで、山野の楽がはじまったひとつの説にも、宇佐神宮から山野若八幡神社に神様を分けていただいたとき、神様へのおもてなしとして、この楽がはじまったという説もあるようです(参照:山野ん楽(山野の楽)について|公式サイト 山野の楽)
一方で、河童の関わる説もあるようです。箇条書きで書くと…
・山野村の溜池に河童が住んでいた
・溜池を村人が埋めてしまった
・河童の祟りにより村が火事となった
・年に一度お祭りをするので河童に別の場所に移るよう願った
これが山野の楽のはじまりだという説もあるようです(参照:山野ん楽(山野の楽)について|公式サイト 山野の楽)。
たまたま立ち寄ってみた山野の楽ではありましたけど、調べてみると宇佐神宮との深いかかわりがあったとは…思いがけない発見でした。