日々の”楽しい”をみつけるブログ

福岡県在住。九州北部を中心に史跡を巡っています。巡った場所は、各記事に座標値として載せています。座標値をGoogle MapやWEB版地理院地図の検索窓にコピペして検索すると、ピンポイントで場所が表示されます。参考にされてください。

琉球列島の多様な生き物はどのようにして生まれたか

沖縄本島は、およそ北緯26度で、北緯30度ふきんにあたります。赤道の南北30度ふきんは、一年じゅう「亜熱帯性高気圧」という温かい高気圧におおわれています。赤道上で温められた空気が、上昇気流により大気上層にあがっていき、南北30度あたりでおりてきます。

 

参照:亜熱帯高圧帯 - Wikipedia

参照:『沖縄のいきもの』P.33‐35

参照:OpenStreetMap for Wikipedia - Wikipedia article: 北緯30度線

 

おりてきた空気は高温で乾燥しているために、大陸の内部では、この温かい空気がおりてきた地域は乾燥地帯となってしまいます。外国の北緯30度ふきんの国を確認してみると、アフリカ大陸北部のチュニジア、エジプトの首都カイロ、チベットのラサ(拉萨)などがあげられ、いずれも乾燥した気候で周囲に砂漠がひろがっている地域もあります。

 

しかし、おなじ北緯30度ふきんである鹿児島県の屋久島や、やや南に位置しますが琉球列島*1は、乾燥した地域ではなく、雨が比較的多く緑ゆたかな地域になっています。

 

その理由は…

 

・これらの島々が海に囲まれているため海洋性気候の影響をうけていること

 

・アジア大陸の東側に位置しているため季節風の影響をうけていること

 

・定期的に発生する台風の影響をうけていること

 

…が緑の多い要因となっています。

 

参照:『沖縄のいきもの

 

緑豊かな地域であるために、生物の住みやすい地域にもなっています。これがひとつの理由となって2021年7月26日に奄美大島(あまみおおしま)、徳之島(とくのしま)、沖縄島北部、西表島(いりおもてじま)は世界自然遺産となっています。

 

ちなみに、沖縄の森では生き物が多様になる季節は3月~6月、10月~11月だそうです。

 

これらの島々が世界自然遺産となったのは、ほかにも理由があるといいます。そのもうひとつの理由が重要だと考えられます。

 

琉球列島の島々はそれぞれできた由来がちがう

琉球列島は北琉球、中琉球、南琉球にわけられます。

 

北琉球:薩摩諸島、トカラ列島の悪石島までの島々

 

中琉球:トカラ列島の宝島、小宝島、奄美諸島、沖縄諸島

 

南琉球:宮古諸島と八重山諸島

 

参照:国立科学博物館.琉球の植物

参照:国立科学博物館.琉球列島

参照:『沖縄のいきもの

 

北琉球・中琉球・南琉球にわけられるこれらの島々はざっくりとわけると以下のような由来でできていると考えられています。

 

北琉球:日本列島

中琉球:アジア大陸東部

南琉球:台湾、アジア大陸南部

 

参照:『沖縄のいきもの

参照:『PDF世界遺産一覧表記載推薦書 奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島』P.63‐68

 

こう考えられる根拠が、それぞれの地域に生息している生物の遺伝子から示されています。北琉球と中琉球とをわける境界線が「渡瀬線(わたせせん)」、中琉球と南琉球とをわける境界線が「蜂須賀線(はちすかせん)」と呼ばれています。それぞれ命名者の名前から線の名前がつけられています。

 

 

北琉球の生き物の特徴

北琉球ではハブはみられず、マムシが生息しています。逆に、ハブは渡瀬線(わたせせん)以南…つまり小宝島、宝島以南…の島々からみられます。北琉球の生き物は、本州~九州でもみられる生き物が生息しているようです。北琉球にふくまれる種子島では、いまでは絶滅していますが、ニホンザルやタヌキ、キツネがいました。北琉球は”琉球”とつくものの本州、九州に生息している生き物と同様の生き物が生息しているようです。

 

参照:『沖縄のいきもの』P.21

参照:ニホンマムシ - Wikipedia

 

中琉球の生き物の特徴

中琉球は沖縄島や奄美大島が含まれています。アマミノクロウサギは中琉球に特異的な生き物です。現在ではアマミノクロウサギは中国では生息していませんが、アマミノクロウサギの祖先にあたる「プリオペンタラグス」の化石が中国で発見されています。中琉球に含まれる奄美諸島特有のアマミノクロウサギ、ケナガネズミなどの生き物が、アジア大陸から海を泳いで中琉球の島々へわたったとは考えにくく、大昔に、中琉球がアジア大陸の一部であった可能性があります。そして1,163万年前~約200万年前頃にアジア大陸から中琉球の島々が分離されたと考えられています。

 

フィリピン海プレートが北北西に進んで琉球海溝に沈み込むようになり、沖縄トラフが拡大して島弧が成立した。また、トカラ海峡、慶良間海裂、与那国海峡が形成され、中琉球と南琉球が大陸から分離した。

 

もともとは複数の場所で生息していた生き物が、天敵や気候変動などの理由で他の場所の種は絶滅し、天敵がいないなどの理由で特定の場所だけ生き残った場合、その生き残った生き物を「遺存固有種(いぞんこゆうしゅ)」と呼びます。アマミノクロウサギは、この遺存固有種の一例にあがります。

 

参照:国立科学博物館.アマミノクロウサギの祖先とその進化をさぐる

参照:『PDF世界遺産一覧表記載推薦書 奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島』P.63‐65

 

 

南琉球の生き物の特徴

南琉球は宮古島、与那国島、石垣島、八重山諸島が含まれています。宮古島の特有種として、ミヤコカナヘビ、ミヤコヒバア*2、ミヤコヒメヘビ、ミヤコヒキガエルがいます。これらの生き物は台湾やアジア大陸東部にみられます。つまり宮古諸島はアジア大陸由来の生き物いる地域であり、この理由から南琉球がアジア大陸とつながっていたということが考えられています。

 

そして、南琉球の島々が同じ南の島由来であることを裏付ける証拠として、宮古列島と八重山諸島、共通に生息するキシノウエトカゲ、サキシマヌマガエルがいます。キシノウエトカゲ、サキシマヌマガエルは、両 島嶼(とうしょ)群の間でほとんど遺伝的な差異がみられないそうです。

 

参照:『PDF琉球列島の古地理と陸生動物の多様化

 

中琉球、南琉球に生息しているハブとハブの近縁種に関しても、中琉球と南琉球とでは遺伝的に一線を画しています。

参照:『沖縄のいきもの

参照:ハブの進化が語る南西諸島の成立.広報誌「淡青」35号より | 東京大学

 

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以上のように、”琉球”という名前がついている地域でも、北部・中部・南部それぞれの地域における生き物の種類が異なっています。その理由が、これら3つの地域の島々がそれぞれ、日本列島、アジア大陸東部、台湾・アジア大陸南部というように異なる場所とつながっていたことから生じているからです。

 

このような理由から琉球列島は、多種多様な生き物が生息する地域となりました。その結果、世界自然遺産に登録されることとなりました。

*1:鹿児島県のトカラ列島、奄美諸島、沖縄県の沖縄諸島、先島諸島、大東諸島

*2:宮古諸島だけに生息する中型のヘビ