


福岡県北九州市若松区 有毛付近の地図を眺めると、無数の小さな溜池が密集している独特の景観が確認できます。これは、安定した水資源を得にくいという地形的な制約があり、それに対して、先人たちがつくりあげた水利インフラの痕跡です。

若松区の西側から響灘沿岸にかけてのエリアには、広大な集水域を形成するような山塊が存在しません。そのため、遠賀川のように年間を通じて水量を保てる大規模な河川が育たず、恒常的な水源にアクセスすることが物理的に困難な環境でした。さらに、有毛周辺は標高数十メートル程度の低い丘陵が連なる地勢です。豊かな保水力を持つ深い森林がないため、降った雨は地中に長く留まることなく、短時間で海へと流れ去ってしまいます。
このような低い保水力の制約を抱えるなかで、現在の若松キャベツやスイカなどに連なる農業を維持するためには、限られた降水を逃さずに面的に収集し、局所的に貯留する機能が不可欠でした。そこで採用されたのが、低い丘陵から流れ出るわずかな雨水を谷の出口や窪地を利用して堰き止め、小さな溜池を無数に配置するという手法です。
一見すると地形の間にランダムに点在しているように見えるこれらの溜池群ですが、与えられた自然環境の制約の中で、地形の微細な起伏を読み解きながら最適化された、分散型の水資源管理システムが広がっています。
参照:『地図からの読む歴史』足利健亮著,講談社学術文庫,P223,229