日々の”楽しい”をみつけるブログ

福岡県在住。九州北部を中心に史跡を巡っています。巡った場所は、各記事に座標値として載せています。座標値をGoogle MapやWEB版地理院地図の検索窓にコピペして検索すると、ピンポイントで場所が表示されます。参考にされてください。

宮古島佐良浜における民間信仰の構造化

今、仕事をやっていると、問題に対する迅速で合理的な解決が要求されますが、不確実性への非耐性は過度な不安を引き起こす要因となります。ジョン・キーツが提唱した「ネガティブ・ケイパビリティ(性急な結論を求めず、不確実さに耐える能力)」は、この課題に対する構造的なアプローチとして機能します。

 

一方、沖縄の民俗医療(ユタやムヌスーによる介入)では、病を単なる身体的疾患としてではなく、心理的・社会的関係性を含む総体的な事象として定義し、解決に向けて「治癒の物語」を構築するプロセスが採用されています。この原因探求と意味づけの過程には、曖昧な状態を許容し保持するネガティブ・ケイパビリティが実用的なシステムとして組み込まれています。

 

以前、私はこのことに興味をもち、書籍『治癒と物語』東 資子著.を拝読しました。そのこともあり、宮古島の伊良部島の民間信仰についても興味深く、他資料も参照しています。


以下の文章は、宮古島の伊良部島佐良浜における民間信仰の構造について、いくつか文献を参照し、情報を整理しました。備忘録として記述します。

 

この地域の信仰体系は、単なる呪術的な個人の能力の寄せ集めではなく、公的な「祭司システム」と私的な「シャーマンシステム」が、あきらかに分化し、相互に補完し合うこまかい構造を持っています。

 

公的な領域を担うのが「ツカサ(ツカサンマ)」と呼ばれる神役です*1。村落全体の御嶽(ウタキ)の祭祀を行い、共同体全体の庇護を目的とします。興味深いのは、この役職が必ずしも個人の霊的資質(カミゴトの能力)を前提としていない点です*2。くじ引きで選出されることもあり、特別な能力を持たない者も共同体システムの一部として機能します。役職にはモトムラの「フンマ」を頂点とする序列があり、ウガンシュー(拝礼)やシジュウナラ(供物作成)といった実務を担う補佐組織がそれを物理的に支える、明確なピラミッド型の組織構造が構築されています。

 

一方、私的な領域を担うのが「ユタ」や「カンカカリャ」といったシャーマン的職能者です。これらのかたがたは、神や精霊との直接的な交信能力を根拠とし、各家庭や個人からの依頼に応じて占い(ハンジ)や祈願を行います。これは制度化された全体的な役割というより、個人の資質やカリスマ性に依存した機能です。



この2つの異なるシステムは完全に分断されているわけではなく、祭祀組織の内部で交差しているようです。ツカサンマの中にも霊的資質を持つ者が混在しており、フンマに次ぐ第2位の序列である「カカラ(カカリャンマ)」のように、本来はシャーマン的な職能を持つ者が、公的な祭司組織の中に制度として組み込まれています。予測不能な個人の特異な能力を排除するのではなく、村落を維持するための公的システムの中に配置し、役割を与えて制御する仕組みとして機能しています*3*4

 

さらに、女性の霊性がライフステージに応じて社会的に機能づけられているという特徴的な点もあります。文献によれば*5、初潮前の少女による毛髪提供(フナダマへの庇護)に始まり、兄弟への庇護、夫への庇護、婚家の祭司、村落全体の祭司(ツカサ)、そして退任後の後見人(アニンマ)へと、年齢階梯に従ってその役割が変化していきます。

目に見えない不確かな事象を、共同体を維持するための役割分担へ変更させ、論理的に運用していると考えられます。精神論だけではなく、社会を回すための構造としてとても論理的に組み立てられた仕組みであると考えます。

*1:川上新二. 祭司(プリースト)からシャーマンへ:沖縄・伊良部島佐良浜での事例. 岐阜市立女子短期大学研究紀要. 2019, (68), p. 1-10.

*2:川上新二. 沖縄・伊良部島佐良浜の宗教職能者:祭司とシャーマンとの関係について. 岐阜市立女子短期大学研究紀要. 2016, (65), p. 15-.

*3:安倍宰. 政治人類学の理論とその現代的意義. 明治大学, 2015, 博士学位論文.

*4:畠山篤. カムス:伊良部島の年中行事

*5:徳丸亞木「南西諸島島嶼社会における女性霊性の民俗学的研究」『南太平洋海域調査研究報告』No.38、2003年、17-22頁。