日々の”楽しい”をみつけるブログ

福岡県在住。九州北部を中心に史跡を巡っています。巡った場所は、各記事に座標値として載せています。座標値をGoogle MapやWEB版地理院地図の検索窓にコピペして検索すると、ピンポイントで場所が表示されます。参考にされてください。

『帯石』に刻まれる「帯」の正体 福岡県糸島市二丈鹿家

福岡県の糸島(いとしま)ふきんの地形図をながめていると、「帯石(おびいし)」という名称がつけられた場所をみつけることができました。そこへ、実際にいける機会が得られたので、帯石の写真を撮ってみました。

場所:福岡県糸島市二丈鹿家

座標値:33.484597,130.045082

 

巨大な岩石の中央部分に、その名前の通り、「帯」のような模様がはいっています。この模様はなんなのでしょうか?この不思議な模様ができるしくみについて、以下、調べてゆきたいと思います。

 

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地形図をみると、糸島半島は、岬と岬の間に砂浜が広がる複雑な海岸地形をもっています 。帯石が位置する海岸は、糸島半島の南西部に位置しており、沖に向かって開けています。そのため、外界からの波が入りやすい細長い砂浜になっています 。この砂浜は、周辺地域の岩石が長い時間をかけて、風化と侵食によって細粒化し、堆積した結果であることが想像されます。

地質図naviで確認すると、この帯石がある一帯は、主に白亜紀に形成された花崗閃緑岩で構成されていることがわかります*1。この糸島花崗閃緑岩は、北部九州の西部、糸島半島の中央部から西方にかけて広く分布する主要な岩体です*2

糸島花崗閃緑岩は、斜長石と石英の量比が多く、IUGS(国際地質科学連合)の分類では主に花崗閃緑岩からトーナル岩に区分されます。これら花崗閃緑岩・トーナル岩は、マグマが地下の岩盤の割れ目や隙間にはいりこみ、それがゆっくりと時間をかけて冷え固まることで形成されます。このように、”隙間にはいりこんでつくられた岩”を「貫入岩体」と呼びます。

ペグマタイト

この貫入岩体の中でも、特にマグマの成分が冷え固まる過程で、水やフッ素などの揮発性成分が濃縮され、最後に結晶化してできる岩石がペグマタイトです。このペグマタイトの結晶はおおきくなることが特徴です。

 

アプライト

一方、同じく貫入岩体であるアプライトは、マグマの最後の部分が急速に冷え固まってできる岩石で、ペグマタイトとは対照的に、非常に細かい結晶を持つことが特徴です。これは、マグマが狭い隙間などに流れ込んで、短時間で冷却されたために、結晶が成長する時間がなかったためと考えられます。

 

……

どちらもマグマが地下で固まってできる岩石ですが、冷え固まる速さや環境の違いによって、結晶の大きさが大きくちがっているという特徴をもっています。

 

これら貫入岩体には、ときどき暗色包有物(暗い色の岩石の塊)を含んでいることも特徴です。これらの特徴は、帯石に「横線」の模様ができる一因となります。   


「横線」ができるしくみ

写真のような、岩石の表面に帯状に突出した白っぽい「横線」は、母岩である花崗閃緑岩がつくられたあとに、その花崗閃緑岩の割れ目に別の物質が貫入して固まった地質構造であると考えられます。「岩脈」または「熱水脈」と呼ばれる構造です。

 

糸島花崗閃緑岩がペグマタイトやアプライトをふくんでいる*3ということは、母岩である花崗閃緑岩がつくられている過程で、貫入岩体がつくられてきた…という可能性が高いと考えます。

 

地下深くでマグマがゆっくりと冷えて花崗閃緑岩がつくられている過程で、最後に固まる液体部分には、水や二酸化炭素という揮発性成分や、石英の主成分であるケイ酸が濃集します。この高温・高圧の残液が、まわりの岩石にできた割れ目へはいりこみ、そこで急速に結晶化することで、ペグマタイトやアプライトのような特殊な岩体がつくられたと考えられます*4。このような岩体は、母岩に比べて特定の鉱物、特に風化に強い石英がたくさん含まれる傾向があります*5

 

そのため、写真でみられるような「横線」は、糸島花崗閃緑岩がつくられる最終段階で、マグマから分離した残液が貫入して固まった、石英を主な成分とする貫入岩体である可能性が高いと考えられます。

 

差異風化と「帯石」ができるしくみ

風化は、数千年から数万年という長い時間スケールで進行します。風化のなかでも、差異風化は、複数の異なる岩石や、岩石内の異なる部分が、硬度や化学的性質の違いから、風化・侵食のはやさに差ができることで、独特な形状となる風化のことです*6。風化に対する抵抗力が強い…つまり硬い部分が多く残り、抵抗力が弱い…やわらかい部分が削られて溝となります。

 

花崗閃緑岩は、斜長石、石英、カリ長石、黒雲母といった複数の鉱物から構成されている岩石です*7。それぞれの鉱物は、温度変化に対する膨張・収縮の度合いが異なるため、岩石内部に歪みが生じやすく、風化しやすい性質を持っています*8。風化がすすむと、花崗岩は砂状の「まさ土」と呼ばれる状態になって、下流域や海岸に大量の砂を供給します*9。糸島地域の砂浜も、この花崗閃緑岩の風化によって生じた砂が供給源となっていると考えられます*10。帯石の北側にも「串崎」という岬までは、1.4kmほどの砂浜が続いています。この砂浜の砂も、花崗閃緑岩が、風化により砕けてこまかくなったものなのだと考えられます。

いっぽうで、「横線」を形成する貫入岩体は、石英を主成分としていると考えられます。石英は化学的風化に対して最も高い抵抗力を持っています*11。花崗岩が風化して「まさ土」になるとき、他の鉱物が劣化していく中で、風化に強い石英の結晶だけが残っていき、このような白い帯になると考えられます*12。これが、風化抵抗性の違いによる、帯石の形成機序です。

 

風化に脆弱な母岩が、波の作用や化学的風化によってじょじょに削られていく一方で、風化にとても強い石英の「横線」部分はほとんど形を崩さずに残存しました。この風化速度の差が、最終的に写真に見られるような、帯状に突出した独特の模様をつくりあげました。

帯石以外の場所でも「白い帯」はみられる

帯石よりも海側には花崗岩の岩礁がみられる

帯石周辺には、車を止められる場所がなかったので、無人駅である「鹿家駅(しかかえき)」の前の広場に車をとめさせていただき、砂浜をあるいて帯石まで移動しました。片道320m程度でした。