日々の”楽しい”をみつけるブログ

福岡県在住。九州北部を中心に史跡を巡っています。巡った場所は、各記事に座標値として載せています。座標値をGoogle MapやWEB版地理院地図の検索窓にコピペして検索すると、ピンポイントで場所が表示されます。参考にされてください。

自分自身が攻撃的行動に陥らないための対策と実践

前回の記事『攻撃的行動の深層心理』の続きです。

 

心理学的側面から、より具体的な思考パターン、感情調整スキル、対人関係能力に焦点を当て、攻撃的行動の予防と修正ができるのではないかと考えます。



認知行動療法(CBT)の応用

認知行動療法(CBT)は、認知の歪みと、それに関連する行動を特定し、修正することに焦点を当てます。感情の調整能力を高め、問題解決のための対処能力を向上させることができるのではないかと考えます*1

 

CBT(認知行動療法)は、人が攻撃的な行動をとってしまう原因となる考え方の癖を見つけて、それを直すのに役立ちます。たとえば、周りの状況を「脅かされている」「敵対されている」と悪い方にばかり考えてしまう「敵意帰属バイアス*2」や、あおり運転をする人が「相手が悪い」と一方的に決めつける「原因帰属の偏り*3」、パワハラをする人が「自分は間違っていない」と思い込む「自己正当化*4」といった、物事をゆがめて捉える考え方を認識し、もっと現実的で建設的な考え方に変えていきます。このように考え方を変えることで、感情的になる度合いが弱まり、衝動的に攻撃的な行動に出てしまうことを止められるため、とても重要です。

 

CBTでは、ストレスにうまく対処する方法や、感情をコントロールするスキルも身につけます。怒りや不快な気持ちに効果的に対応するための具体的な方法を学ぶことができます。たとえば、「ストレス接種訓練」というCBTの技法では、怒りを感じるような状況を頭の中で想像し、自分の感情の動きに気づきながら、どう対処するかを練習します。これによって、実際に感情が大きく揺さぶられるような状況になった時でも、落ち着いて対応できるようになります*5

 

CBTは、子どもや思春期の攻撃的な行動や問題行動の治療に効果がある*6だけでなく、大人になってからの強い怒りや攻撃性にも効果が期待できることがわかっています*7。CBTが効果的なのは、考え方、感情、行動がどのように深く関係し合っているかを明確に捉え、計画的に働きかける点にあります。攻撃的な行動は、「状況を脅威だと感じる(敵意帰属バイアス)」とか、「自分の責任を他人のせいにする(原因帰属の偏り)」といった、ゆがんだ考え方から生まれることが多いです。CBTでは、これらのゆがんだ考え方を見つけ出し、それに疑問を投げかけることで、攻撃行動のきっかけとなる「火種」を消していきます。考え方が修正されると、それに伴って強くなっていた感情的な反応(例えば、怒りが増幅すること)も和らぎます。このように感情が調整されることで、人は衝動的に感情を爆発させるのではなく、建設的な問題解決など、より良い行動を選べるようになります。このプロセスは、健全な考え方が感情のコントロールを促し、それが良い行動につながり、さらに攻撃的ではない新しい考え方を強化するという、良い循環を生み出します。認知行動的な攻撃性治療(CBAT)に関する脳の画像研究では*8、感情的な反応に関わる脳の領域(辺縁系)の活動が減り、実行機能を司る脳の領域(前頭前野)の活動が増える可能性があるとされています。これは、CBTが攻撃性に関わる脳の回路を文字通り「つなぎ直す」可能性があることが示されています。



認知行動療法の具体的な方法

CBTの基本は、自分自身の「思考(認知)」が「感情」に影響を与え、それが「行動」につながるという関係性を理解することです 。このつながりを日常的に観察し、記録することがまず実践できることです。   

 

週間活動記録をつける: 毎日、その日の気分(不安、悲しいなど)を数値化し、一日に行った活動を記録します 。これにより、どのような活動が気分に影響を与えるか、自分の現状を客観的に把握できます*9

 

ストレスを感じたり、感情が揺れ動いたりした状況を具体的に記録します。つまり、 いつ、どこで、何が起こったか、客観的な事実を記述し、その時、どのような感情(怒り、不安、悲しみなど)を何%感じたかを記録します。その瞬間に頭に浮かんだ考えやイメージをそのまま書き出します。これが「ホットな思考」と呼ばれる、その時の気分を最もよく説明する考えです*10。   さらに、思考や感情だけでなく、その時に体に起きた反応(例:心臓がドキドキする、体がこわばる)や、実際にとった行動(例:その場を離れた、黙り込んだ)も記録します。

 

このような認知行動療法の記録を音声入力や生成AIに直接入力するのも良い方法なのかもしれません。キーワードで記録した内容であっても、生成AIが文章を補足してくれることで、より詳細な記録になり、思考の補助に役立つと考えます。

 

例えば、「不安」「電車内」「動悸」といったキーワードを入力したとすると、AIは、それらのキーワードから「電車内で不安を感じ、動悸がした状況」というように、具体的な文章として補足してくれます。さらに、認知行動療法の文脈で、その時の「ホットな思考」や、どのような「身体反応」「行動」があったかなど、記録に漏れがないかを促すような質問を生成したり、一般的な思考のパターンや認知の歪みに関する情報を提供したりすることも可能と考えます。



認知の歪みを特定し、バランスの取れた思考に切り替える

攻撃的行動の背景には、物事を偏って解釈する「認知の歪み」が存在することが多いため、これらを特定し、より現実的で建設的な思考へと修正する練習をします。自動思考が客観的な事実に基づいているか検証します。「きっと〜だろう」といった想像や推測ではなく、具体的な根拠があるかを確認します。

 

認知の偏りに注目する

以下のような一般的な認知の歪みに自分の思考が当てはまらないか確認します*11

 

全か無か思考(白黒思考)

「1回でも負けたら全ておしまい」「失敗したら何もかも意味がない」のように、物事を極端に二分して考えてしまいます。グラデーションを認めず、すべてをゼロかイチかで判断してしまう考え方です。この思考パターンを持っていると、少しでも期待通りにいかないと、その全てが無駄だと感じたり、自分自身を全面的に否定してしまったりしがちです。たとえば、ダイエット中に、少しリバウンドしただけで、「もうダメだ、自分は意志が弱い、どうせ痩せられない」と、それまでの努力まで全て無意味だと感じてしまうような場合がこれにあたります。一度のミスで、すべてが台無しになったように感じてしまいます。

 

この思考の背景には、「完璧でなければならない」という強いこだわりや、「少しでも欠点があれば、自分には価値がない」といった信念が隠れていることがあります。しかし、現実世界は白黒はっきりしていることばかりではありません。ほとんどの物事には中間があり、努力の過程や部分的な成功にも価値があります。全か無か思考は、このような現実の複雑さや多様性を無視し、自分自身や他者、あるいは出来事を過度に厳しく評価してしまうことにつながるため、不必要なストレスや絶望感を引き起こしやすくなると考えられます。

  

心のフィルター

ポジティブな出来事を無視し、ネガティブな情報ばかりに注目してしまう心のうごきです。例えば、「心のフィルター」がかかっていると、職場でいつも笑顔で挨拶を交わす同僚が、ある朝、険しい表情で目を合わせずに挨拶を返してこなかったという状況で、以下のように捉えてしまうかもしれません。

 

「きっと、私が何か悪いことをしたんだ。昨日、彼を怒らせるようなことを言ってしまったのかもしれない。あの人は私を嫌っているに違いない」

 

この時、「心のフィルター」は、普段のその同僚の友好的な態度や、自分自身がこれまでに築いてきた良好な人間関係といった多くのポジティブな情報を無視してしまいます。代わりに、「険しい顔だった」「目を合わせてくれなかった」というたった一つのネガティブな情報だけを選び出し、それに焦点を当てて拡大解釈してしまいます。

 

実際には、その同僚は昨夜寝不足だったのかもしれませんし、個人的な悩み事を抱えていたのかもしれません。あるいは、単に考え事をしていただけで、あなたの挨拶に気づかなかっただけかもしれません。しかし、心のフィルターを通して見ると、これらの他の可能性はすべて遮断され、「自分は嫌われている」というネガティブな結論に飛びついてしまいます。

 

この例のように、心のフィルターは、ポジティブな側面や他の合理的な説明を素通りさせ、ネガティブな情報ばかりを拾い上げてしまうため、不必要な不安や自己否定感につながることがあります。

 

心の読みすぎ

相手の行動の意図をネガティブに決めつける(例:挨拶されなかったのは嫌われているからだ)。実際には確認できない他人の思考や意図を、自分にとってネガティブな方向に勝手に決めつけてしまう認知の歪みです。相手の行動や表情、言葉のニュアンスなど、ほんのわずかな手がかりから、あたかも相手の心が読めるかのように「こうに違いない」と思い込んでしまうのが特徴です。

 

たとえば、「挨拶されなかったのは嫌われているからだ」という例は、まさに心の読みすぎの典型です。挨拶を返してこないという客観的な事実は一つだけですが、その背後にある相手の意図を、あなたが「嫌われている」というネガティブな結論に直結させてしまっています。

 

この思考パターンが起こると、以下のような状況に陥りがちです。

 

根拠のない不安や怒りを感じる: 相手が実は単に忙しかったり、体調が悪かったり、あるいは考え事をしていたりしただけだとしても、「嫌われている」と思い込むことで、不必要に不安になったり、相手に対して怒りを感じたりしてしまいます。

 

人間関係の悪化: 勝手にネガティブな結論を出すことで、相手に対して不自然な態度をとったり、距離を置いたりしてしまい、結果的に本当に人間関係が悪化してしまうことがあります。相手に「なぜそんな態度をとるのか」と尋ねることなく、自分の推測だけで行動してしまうため、誤解が解ける機会を失ってしまいます。

 

自分の殻に閉じこもる: 他人の評価を過度に恐れるようになり、「どうせ悪く思われているだろうから」と、新しい交流を避けたり、自分の意見を言わなくなったりすることもあります。

 

心の読みすぎは、相手の行動の背後には様々な理由があるという可能性を考慮せず、自分のネガティブな解釈こそが真実だと思い込んでしまうことで生じます。この歪みに気づくことは、不必要な心の負担を減らし、より健全な人間関係を築くための第一歩となります。

 

先読みの誤り

先読みの誤りとは、まだ起こってもいない未来の出来事を、根拠もなく、悲観的な結果になると決めつけてしまう認知の歪みです。まるで未来を予知できるかのように「どうせうまくいかないだろう」「きっと失敗するに違いない」といった結論を導き出し、それが実際に起こると信じ込んでしまうのが特徴です*12

 

この思考パターンは、「こうなるだろう」という予測ではなく、「こうなるに決まっている」という確信を伴います。そのため、まだ努力する余地があるにもかかわらず、最初から諦めてしまったり、行動を起こす前に意欲を失ってしまったりすることが少なくありません。

 

例えば、新しい企画を上司に提案しようと考えているときのことを想定します。資料も熱心に作り込み、成功すれば仕事場での業績にも良い影響があると感じています。しかし、いざ提案の日が近づくにつれて、心の中で以下のような「先読みの誤り」が始まります。

 

「どうせ、この企画は上司に却下されるに違いない。前に提案したあの企画も、結局採用されなかったし。今回もきっと、何かしらケチをつけられて、無駄に終わるだろう。」

 

この思考の中には、以下のような「先読みの誤り」の要素が含まれています。

 

・根拠のない悲観的な決めつけ

まだ企画を提案してもいないのに、「どうせ却下されるに違いない」と、未来の結果を一方的にネガティブに決めつけています。

 

・過去の経験の過度な一般化

過去に一度却下された経験*13を、今回の全く異なる企画にも当てはめ、「今回もきっと同じだ」と結論付けてしまいます。

 

・可能性の無視

企画が成功する可能性、あるいは建設的なフィードバックが得られる可能性など、ポジティブな側面や他の合理的な結果を完全に無視しています。

 

この「先読みの誤り」によって、提案をすることへの意欲を失い、資料の最終確認をやらなかったり、プレゼンテーションの練習がおろそかになったりするかもしれません。最悪の場合、提案すること自体を諦めてしまう可能性もあります。実際には起こっていない未来の失敗を先に予期することで、結果的にその予測が自己実現してしまう*14リスクも生じます。



感情的決めつけ

感情的決めつけとは、自分の感情や気分が、まるで客観的な事実であるかのように、物事の現実や真実を決定づけてしまう認知の歪みです。思考が感情に支配され、「そう感じるから、きっとそうなのだろう」と結論を出してしまうのが特徴です。

 

例えば、職場の雰囲気を良くしようと考え、率先して散らかった共有スペースの整理整頓をしたとします。これは皆が気持ちよく働けるようにという善意からの行動です。しかし、数日経っても誰からも感謝の言葉はなく、特に反応もありませんでした。

 

この時、「感情的決めつけ」が働くと、以下のように考えてしまうかもしれません。

 

「自分がこれだけがんばって整理したのに、誰も気づいていないし、誰も評価してくれない。どうせ、自分が行うことなんて、誰も見てくれていないんだ。誰の役にも立っていないんだ。もう、こんなことやったって無駄だ。どうせ自分なんて、いてもいなくても同じなんだ。」

 

この思考には、以下のような「感情的決めつけ」の要素が含まれていると考えます。

 

・感情(失望、不満)が事実と結びつく

「誰も反応してくれない」という事実と、自分が感じた失望や不満という感情が結びつき、「どうせ誰も見ていない」「自分は無価値だ」という決めつけに変わっています。

 

・一時的な感情が絶対的な結論に飛躍

一時的に反応がなかったという状況から、「一生誰も見てくれない」「自分の存在価値がない」といった極端で悲観的な結論へと飛躍しています。

 

・他の可能性を無視

他の人は忙しくて気づかなかっただけかもしれない、感謝はしていても表現していないだけかもしれない、あるいは気づいていてもまだ言葉にする機会がなかっただけかもしれない、といった様々な可能性を無視し、自分の感情的な解釈が真実だと決めつけてしまっています。

 

このように、感情的決めつけは、善意からの行動が無反応だったという一時的な状況と、それに対する個人的な感情が結びつくことで、「自分は認められていない」という悲観的な結論を導き出し、ふてくされたり、今後の行動意欲を失ったりすることにつながります。

 

自分の自動思考を客観的に見つめ直すためには、家族や友人が同じ状況にいたらどうアドバイスするか、尊敬する人ならどう捉えるか、あるいは自分が元気な時ならどう考えるかといった異なる視点を取り入れることが有効だと考えられます。

 

最良・最悪・現実的なシナリオを想像する

起こりうる最良のシナリオと最悪のシナリオを想像し、最も現実的なシナリオを考えることで、極端な思考から離れます。自動思考や不安な気持ちが、どれほど現実と乖離しているか、あるいは特定の側面だけを過度に強調していないかを客観的に見つめ直すのに役立ちます*15

 

例えば「職場で周囲のひととなじめず、孤立したらどうしよう」という不安がある場合、最良・最悪・現実的なシナリオを想像することで、その不安を客観的に見つめ、対処することができると考えます。

 

・最良のシナリオ

自分から積極的に周囲の同僚にコミュニケーションをとり、同僚もオープンに接してくれることで、すぐに職場に溶け込み、仕事もスムーズに進み、公私ともに充実した人間関係を築ける。

 

・最悪のシナリオ

誰にも話しかけられず、誰も自分に話しかけてくれず、仕事で必要な情報も共有されず、孤立無援の状態で、最終的には会社に行くのが苦痛になり辞めてしまう。

 

・現実的なシナリオ

最初は少し緊張してしまい、すぐに全員と打ち解けるのは難しいかもしれない。でも、挨拶を欠かさず、業務で必要なコミュニケーションをとり、少しずつ共通の話題を見つけていくことで、徐々に数人の同僚とは良好な関係を築ける。完全に孤立することなく、仕事も問題なく進められるようになる。

 

このような両極端のシナリオを捻出し、極端な思い込みから離れて現実的なシナリオを考えることで、過度な不安を和らげ、実際に行動を起こすための具体的なステップを考えやすくなると考えます。

 

 

ポジティブなセルフトークを実践する

自分自身に対する思考や信念に注意を向け、ネガティブなセルフトークに異議を唱え、自己慈悲と自信を促進するポジティブな言葉に置き換えます。無意識のうちに自分自身に対して色々なことを考えていますが、その中には根拠のないネガティブな思考、いわゆる「ネガティブなセルフトーク」が多く含まれていることがあります。これをポジティブな言葉に置き換え、自分を励ますように変えていくのが、ポジティブなセルフトークの実践です*16



具体的には、以下のステップで進めます。

 

ネガティブなセルフトークに気づく(注意を向ける)

まずは、自分がどんな時に、どんなネガティブなことを考えているのかに気づくことから始めます。例えば、「自分はなんてダメなんだ」「どうせうまくいかない」「人から嫌われているに違いない」といった思考が浮かんだら、「あ、今、ネガティブなセルフトークをしているな」と意識することが第一歩です。日々の記録をつけることで、どのような状況でネガティブなセルフトークが現れるのか、パターンが見えてくることもあります。

 

ネガティブなセルフトークに異議を唱える

気づいたネガティブなセルフトークに対して、「本当にそうなのだろうか?」「その考えにはどんな証拠があるだろうか?」「そうではない可能性はないか?」と、問いかけてみましょう。多くの場合、ネガティブな思考は事実に基づかない感情的なものだったり、極端な解釈だったりします。例えば、「自分はなんてダメなんだ」と思った時に、「本当にダメなのか? 昨日はあの仕事をやり遂げたじゃないか」「失敗したこと一つで、全てがダメだと言えるのか?」と反論してみます。

 

ポジティブな言葉に置き換える

ネガティブな思考に異議を唱えたら、それを自己肯定的な言葉や、より現実的で建設的な言葉に置き換えます。これは、自分を甘やかすということではなく、自分自身に対する思いやりを持ち、自分の良い点や努力を認め、自信につなげるためのものです。

 

「自分はなんてダメなんだ」→「今回はうまくいかなかったけど、次はもっとこうしてみよう」「私はこの経験から学べる」「不完全でも、今の自分で十分だ」

 

「どうせうまくいかない」→「もしかしたら難しいかもしれないけど、できることはやってみよう」「挑戦する価値はある」「前向きに取り組めば、道は開けるかもしれない」

 

「人から嫌われているに違いない」→『「そう感じる時もあるけど、そうではない可能性もある」「私のことを気にかけてくれる人もいる」「誰もが私を嫌っているわけではない」

 

意識的に自分の心のなかの声を変えていくことで、感情や行動にも良い影響を与え、自己肯定感を高めていくことができると考えます。最初は難しく感じるかもしれませんが、繰り返し実践することで、徐々にポジティブなセルフトークが習慣になっていく可能性があります*17

 

行動活性化とストレス対処法を実践する

思考の修正だけでなく、行動も変えていきます。



行動実験を行う

避けていることや、気分が落ち込む原因となっている活動を、小さなステップで試してみます。例えば、「疲れているから散歩は気分が悪くなるだろう」と考えているなら、まず20分間の散歩を1週間試してみて、その結果を記録し、自分の予測が正しかったかを確認します 。   

 

楽しみやくつろぎの時間を大切にする

疲れが残らない範囲で、趣味やリラックスできる活動(音楽鑑賞、読書、マッサージなど)を取り入れ、エネルギーを充電します 。   

 

「PLEASE」スキルで身体のバランスを整える

身体の基本的なニーズを満たすことで、感情の調整を助けます。

 

Physical illness:身体の病気を治療する

L (balanced) Eating:バランスの取れた食事

Avoiding mood-altering substances:気分を変える物質を避ける

S (balanced) Sleep :バランスの取れた睡眠

Exercise:運動,毎日20分程度の運動

 

ストレス接種訓練を試す

怒りやストレスを感じやすい状況を頭の中で想像し、その状況でどのように冷静に対処するか、具体的な対処法を練習します*18。ゆっくりと息を吸い込み、吐き出す呼吸法で心を落ち着かせます*19

 

感情が高ぶった際には、その場を一時的に離れて冷静になる時間を持つことも有効です。怒りに任せて言葉をぶつけるのではなく、自分の気持ちや意見を穏やかに伝えるよう心がけます。日常生活の中で意識的に繰り返し行うことで、攻撃的行動につながる思考や感情のパターンを効果的に管理し、より建設的な反応を選択できるようになると考えます。

 

人のふり見て、わがふり直せ

「人のふり見て、わがふり直せ」という考えで、他者の行動を観察し、自身の行動を振り返る方法も有効かもしれません。自身の自己認識とメタ認知能力を高めるための実践的なトレーニングとなると考えます。身近な人間関係(職場、家族など)だけではなく、SNS、そしてテレビのニュースやドキュメンタリーでも人間観察が行なえます。匿名性のあるSNSでは、普段は見られないような攻撃的な言動や極端な意見を目にすることがあります。ここでは、感情的な反応がどのように生まれるのか、また他者がどのように自己を正当化するのかを観察する良い機会となると考えます。テレビのニュースからは、特定の事件や人物に対する報道、それに対する人々のコメント(SNSなど)を観察することで、社会的な感情の動きや集団心理、そして自身の認知バイアス(例えば、報道された情報に対してどのような先入観や感情的な反応を抱くか)を客観的に分析する練習ができるのではないかと考えます。

 

・自己認識の深化

他者の「悪い癖」や攻撃的な行動を観察する際、単に批判的に見るのではなく、「なぜあの人はそのような行動をとるのだろうか」「自分にも似たような傾向はないだろうか」と内省することで、自身の感情、思考、価値観、そしてそれらが行動にどう影響するかをより深く理解する機会が得られます 。自己認識の向上は、怒りの管理や攻撃性の抑制に繋がることが示されています*20

 

・メタ認知能力の向上

他者の行動を客観的に観察し、それを自身の思考や感情のパターンと照らし合わせることは、まさにメタ認知能力(自身の思考プロセスを客観的に理解し、制御する能力)を鍛えることになります 。メタ認知能力が高い人は、感情に流されにくく、自身の非を素直に認められる傾向があります 。他者の行動を分析し、それを自身の行動改善に繋げるという繰り返しが、この能力を効率的に鍛えます*21

 

・認知バイアスへの気づき

自分自身を正しく、道徳的であると見なしたいという心理的欲求を持っています 。そのため、他者の欠点には気づきやすい一方で、自身の同様の傾向には無自覚である「認知バイアス」が存在することがあります 。他者の行動を客観的に分析し、自身の行動と比較することで、自身の思考の偏りや自己正当化の傾向に気づくきっかけとなり得ます*22

 

・共感性の育成

他者の行動の背景にある感情や状況を想像しようと努めることは、共感性を育むことに繋がります 。共感性は、他者の苦痛を理解し、害を及ぼす行動を避けるための重要な要素であり、攻撃的行動の減少に寄与します*23

 

◆◆◆◆◆

誹謗中傷やハラスメント、煽り運転といった攻撃的行動の背後には、自己認識の欠如や歪んだ正義感といった共通の心理が見え隠れすることがわかります。そして、自分自身がそうした行動に陥らないためには、日々の「認知行動療法の実践」や「人のふり見て、わがふり直せ」といった地道な内省が、効果的ではないかと考えました。

 

英文学者・吉田健一氏がその著書『吉田健一著作集 第13巻 「長崎」』の中で、「戦争に反対する唯一の手段は、各自の生活を美しくして、それに執着することである」と述べています*24。”他者に思い知らせる”のではなく、まず自分自身が平和に、そして丁寧に生きること。この個人的な実践こそが、社会がより穏やかな方向へすすんでゆく、最も確かな方法なのかもしれません。

*1:Cognitive behavioral therapy - Wikipedia

*2:ClinicalTrials.gov

*3:心理学研究 第96巻 第6号(2026年2月) | 日本心理学会

*4:「私はまちがっていない」―ハラスメント加害者の心理 (臨床心理学 24巻6号) | 医書.jp

*5:Understanding anger: How psychologists help with anger problems

*6:Cognitive behavioral therapy - Wikipedia

*7:Behavioral Interventions for Anger, Irritability, and Aggression in Children and Adolescents - PMC

*8:ClinicalTrials.gov

*9:うつ病の認知療法・認知行動療法

*10:【心理士解説】ノートを活用した認知行動療法のやり方10選 | メンタルヘルスマガジン

*11:認知のゆがみとは?10パターンの具体例、原因、治し方 丨コグラボ- Cognitive Behavioral Therapy Lab

*12:「先読みの誤り(Fortune-Telling)」は、認知行動療法(CBT)において「認知の歪み(Cognitive Distortions)」の一つとして提唱されている概念です。この認知の歪みは、主にアーロン・T・ベックによって体系化された認知療法の理論に基づいています。Beck, A. T. (1967). Depression: Causes and Treatment. University of Pennsylvania Press.:Beck, A. T., Rush, A. J., Shaw, B. F., & Emery, G. (1979). Cognitive Therapy of Depression. Guilford Press.

*13:これも「過度の一般化」という別の認知の歪みと関連します

*14:セルフフルフィリング・プロフェシー(Self-Fulfilling Prophecy)。「自己成就的予言」と訳され、人が何かを予言したり、信じたりした結果、その予言や信念が現実のものとなる現象を指します。つまり、「こうなるだろう」と信じ込んだことが、その後の言動や態度に影響を与え、最終的に実際にそうなってしまう、という現象です。これは、単なる偶然の一致ではなく、自分自身の期待や思考が、無意識のうちに現実を形作る力を持っていることを示しています。ポジティブな予言もネガティブな予言も、どちらも自己成就する可能性があります。

*15:うつ病の認知療法・認知行動療法(患者さんのための資料)

*16:スポーツパフォーマンスにおけるセルフトーク技法の
認知行動理論による理解

*17:スマートフォンで学ぶ 5 つの認知行動スキルがうつ状態を改善

*18:Understanding anger: How psychologists help with anger problems

*19:【認知行動療法をもっと細かく】5つの技法の具体例と効果を解説 | メンタルヘルスマガジン

*20:Teaching Self-Awareness to Students: 5 Effective Activities

*21:Metacognition | Teaching + Learning Lab

*22:Aggression in Disguise: The Psychology and Social Dynamics of Justified Hostility

*23:共感力とは|高い人の特徴や鍛えるためのトレーニング方法を解説 | オンライン研修・人材育成 - Schoo(スクー)法人・企業向けサービス

*24:『吉田健一に就て』刊行記念・「序文」「あとがき」公開|国書刊行会