沖縄県本部町にある塩川(しおかわ、スガーともいう)は、世界でも珍しい「塩水の湧き出る川」として知られています。国の天然記念物に指定されており、そのめずらしく貴重な生態系が保護されています。
場所:沖縄県国頭郡本部町字崎本部
座標値:26.615660,127.895167
参照:PDF.琉球大学学術リポジトリ.天然記念物「塩川」の水質形成と地下水汚染
塩川は岩のすきまから水が流れ出してくる、ふたつの流水部があります。▼こちらはそのうちのひとつです。流れ出してくる水は、やや乳白色にみえます。石灰岩の成分が溶け出しているためではないかと考えます。
塩川の流域は、古生界ペルム(約2億9900万年前~約2億5190万年前までの期間)系の石灰岩を主体とする付加体堆積物から成っています。この付加体堆積物でできている地層は「本部層(もとぶそう)」と呼ばれます。
▼こちらは、ふたつの流水部のうちの、ふたつ目です。こちらの水も、やはり乳白色になっています。
なぜ塩水が湧き出るのか?
塩川の水源は、石灰岩の岩盤から染み出してくる地下水です。この地下水が、海水の成分を含んでいるため、塩辛い水として地上に湧き出ています。
▼地図で塩川の位置を確認すると、海のすぐ近くで湧出していることがわかります。東側から流れてきた地下水が、西側の海から流れ込んできた海水とまざりあってできたのが塩川ということは、なんとなく感覚的に理解できます。ただ、その具体的な原理は不明とのことです。
塩川のすぐそばには堆積岩らしい岩石がゴロゴロとしています▼
塩川の生態系
塩川周辺には、塩水に適応した珍しい生物がたくさん生息しています。ムカシエビのような原始的な生物から、チカヌマエビのような新種の生物まで、多様な生態系が確認されています。
塩川の水質と流量
塩川の塩分濃度は、場所や時期によって変化しますが、一般的に海水よりも少し薄い程度です。また、雨が少ない時期には塩分濃度が濃くなる傾向があります。これは、雨水が地下水に流れ込むことで、塩分が薄められるためです。
▼川に設置されている測量ポール
塩川の汚染
塩川は、周辺の開発や環境汚染の影響をわずかながらにも受けているようです。硝酸イオンや、金属イオンが少しの量ではありますが検出されているようです。流域の畑や畜産場からの糞尿や肥料、ちかくの採石場からの排水が混入している可能性があると考えられています。
人体には、直接的な害は及ぼさないと考えられますが、塩川の水を飲むのはひかえたほうがよさそうです。
参照:PDF.琉球大学学術リポジトリ.天然記念物「塩川」の水質形成と地下水汚染.P52‐P53
▼塩川への入口
▼塩川へと降りてゆく階段。ここからはヤブ蚊が多くなります。
▼ひとつ目の湧水ポイント。
▼ふたつ目の湧水ポイントへと行くには、広場を通っていきます。
▼ふたつ目の湧水ポイントへとつづく橋。
▼ふたつ目の湧水ポイントちかくには、神様が祀られていました。
以下は、塩川の案内板の文字起こしです。
塩川(しおかわ)
昭和47年5月15日指定
国指定天然記念物
塩川は、海水面より高い位置にある湧水口から塩分を含む水が湧き出た全長300m、川幅4mの小規模な川です。昔から隣接する塩川集落を中心とした地域住民に「スガー」と呼ばれ親しまれてきました。湧水口が2ヶ所あり、標高1.3~1.4mに位置しています。それぞれで採水した湧水の分析から、塩分は海水由来であることが分かっています。湧出口の内部は洞穴になっており、地下で海底とバイブ状に繋がっていると推定されています。海底の石灰岩の洞口から侵入した海水と山地で浸透した地下水(淡水)が混ざり合い、汽水となって湧き出ていると推定されていますが、詳しい湧出メカニズムは明らか になっていません。海水面より高い位置で汽水が湧き出る事象について、かつては塩川とプエルトリコ島 (西インド諸島) の2ヶ所しかないと説明されていましたが、同様の事象は地中海沿岸やニュージーランドの石灰岩地域からも報告されています。これらの地域は本部半島のように沿岸部まで石灰岩が広く分布したカルスト 地域です。塩川もカルスト地域の沿岸部に特徴的なカルスト湧泉の1つと考えられます。この不思議な川は、1970年7月に当時の琉球政府により天然記念物に指定され、1972年5月に沖縄の本土復帰により国の天然記念物に指定されました。
本部町教育委員会