福岡県北九州市小倉南区、直方(のおがた)市、田川郡福智町にまたがる、標高約901mの福智山(ふくちやま)を地質図naviでみると、そのほとんどが「付加体(ふかたい)」で占められていることがわかります。
「付加体」は、大昔、海底に堆積した土砂などを指します。海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込むとき、海洋プレートの上にのっている土砂が、大陸側におしつけられはぎとられたものです。海底にたまったものが付加体なので、後に「チャート」となる生物の死骸や、「石灰岩」となるサンゴの死骸なども含まれます。
福智山は、その付加体のなかでも泥岩(でいがん)というものの割合が多いです。泥岩は、その名前の通りもともとは泥です。福智山の大部分を占める泥岩というのはどのような岩石なのか見てみたいと思いました。
泥岩が一番見られる場所はどこか考えてみると、岩の上につもった土砂がなくなっている場所…つまり川の流れている場所ではないかと考えました。
福智山を地形図で見てみると、福智山の東北側傾斜面に「七重の滝」があります。ここならば露出した泥岩が見れるのではないかと思い、行ってみることにしました。
七重の滝
場所:福岡県北九州市小倉南区道原(どうばる)
座標値:33.755985,130.815411
上の地形図をご参照ください。七重の滝の西側に「鱒淵ダム(ますぶちだむ)」があります。このダムの近くにある駐車場に車を停め、徒歩にてダムの西端にある福智山登山口まで移動しました。
ダムの周囲をはしっている遊歩道には車両は進入禁止となっています。ダムから登山口までの所要時間は徒歩で約30分です。遊歩道の山側は、崩れやすくなっているためか、コンクリートで山肌が固められています。しかし、登山口に近づくにつれて、山肌が露出している場所がところどころにみえてきます。この部分で泥岩をみることができます。
泥岩は、泥が強い圧力を受けて硬化した岩で、堆積岩(たいせきがん)というものに分類されます。堆積岩は複数種類があるため、整理のために分類してみました↓
泥岩はもともとの材料が泥なので、構成している粒子はとても細かいです。泥岩は、岩石・鉱物で構成されている岩のなかでも、材料の粒が比較的ちいさいものであることがわかります。福智山の一部を構成するチャートや石灰岩は、生物の死骸からつくられていることが確認できます。
参照:https://kagakuhannou.net/sedimentary-rock/
鱒淵ダムの西端部につくと、七重の滝入口の看板があり、ここから福智山への登山道もはじまります。この地点で標高は162.1mほどです。登山道は沢沿いにはしっています。沢には多くの岩がみられますが、ダム付近では比較的小さな岩がころがっています。
下の写真は登山道にころがっている、おそらく泥岩と思われる石です。標高188.4mあたりです。見るからにパリっと割れやすい印象の石です。比較的、面積の広い平らな面を残して割れています。角はカクカクして、あやまって手をついたら手のひらを切ってしまいそうなほど鋭利となっています。お菓子に例えると、ブロック型の固いチョコレートのようです。Wikipedia-泥岩-によると”一般に剥離性に乏しく塊状に割れる”とあり、写真の石で性質は合致しています。
標高236.9m地点で、「七重の滝」のうちのひとつ「一の滝」にたどりつきました↓
滝つぼの周囲には、下の写真のような巨岩がころがっています。しかし、これからご紹介する上流域の滝周辺にくらべると、一の滝周辺には比較的ちいさな岩がころがっている印象をうけます。
一の滝から二の滝へと続く登山道には鎖場があります。このあたりの岩は、斜めに層状に割れている印象を受けます。
↓こちらが二の滝
↓こちらは一の滝と、二の滝との間にある滝です。おそらくこのあたりも泥岩で構成されていると思いますが、水にぬれると非常にすべりやすくなっています。泥岩を構成する粒子が小石などではなく、泥や粘土であるために、このような滑りやすさが生じるのだと考えられます。写真を撮ると、岩肌に光沢が表れ、美しく絵になります。
カメラを水平にすると泥岩の地層がいかに斜めになっているかがわかります。
↓こちらが三の滝です。写真では伝わりにくいですが、大きな落差があります。おおざっぱに地形図で落差を計測してみます。登山道が276.5m、三の滝の滝つぼが265.9m。差は10.6mです。三の滝は、登山道から見下ろすかたちですが、およそ滝つぼまで10mちかくの落差があることになります。もし足を滑らせて落ちたら…と恐怖を覚えます。
三の滝のある周辺の岩石を観察すると、独特なヒビの割れ方をしていることに気づきます。
ヒビの割れかたが岩に対して斜めとなっていることと、ヒビ自体が平行に走っていたり、直角に交わっていたりします。これは泥岩特有の割れかたなのでしょうか。
ここで、泥岩の特性について調べてみます。どうも岩石は圧力や熱が加わると、その性質が変化するそうです。性質が変化することを「変成作用を受ける」といいます参照。変成作用を受けてできた岩石のことを「変成岩」と呼ぶそうです。
泥岩の場合、変成作用を受けることで以下のように変化してゆきます。
参照:山賀進のWeb site.第二部-2-地球の科学_第11章 変成岩と変成帯_1.変成作用と変成岩
泥岩は一般的には、薄く割れるという「剥離性(はくりせい)」はあまりなくて、塊状に割れます参照。三の滝にある巨岩は泥岩と考えられ、塊状に割れていると想像されます。強い変成作用は受けておらず、頁岩(けつがん)や粘板岩などにまでは変化していないのかもしれません。
板のようにパリっと割れる泥岩は頁岩(けつがん)と呼ばれます。頁岩は、さらに変成作用を受けると、剥離性が発達し粘板岩や千枚岩となります。
参照:『株式会社NTO 井戸掘りのすすめ(愛媛県松山市)』を参照して作成
泥岩は板のように割れないですが、外力が加わるとブロック状に割れる性質があり、カチカチのブロックチョコレートのように割れてしまうと考えられます。その一例が、三の滝周辺の岩盤なのでしょう。
↓こちらは、四の滝です。標高294.5m、座標値:33.7554131,130.8165894です。
そして四の滝周辺でみられる岩盤です。こちらでもはっきりと十文字にヒビがはいっています。
四の滝まであがってきたところで、体力に限界を感じたため、引き返すことにしました。運動不足です。目的とする泥岩はじゅうぶんに見れました。
五の滝、六の滝、七の滝を経由して福智山山頂をめざすのは、またじゅうぶんに時間がとれたときにしたいと思います。
↓こちらは四の滝ちかくに生えている樹です。めずらしい板根(ばんこん)を持っています。岩の上に生えているため、地面に根っこが入りこみづらく、板根を発達させたのでしょうか。
板根を持つ樹
おおよその座標値:33.7550888,130.8166504