大分県の国東半島(くにさきはんとう)の史跡をめぐり始めた当時、とても記憶に残った場所があります。山のなかにある細い道を車で走っていると、道路わきに石段をみつけました。車を降り、その石段をのぼってみると、四角形に掘られた岩窟に石仏が納められていました。
「こんなところに!」と思える場所に、ひっそりと石仏が祀られていることに驚いた記憶があります。あまり人がこなさそうな場所に祀られている石仏にもかかわらず、仏前には綺麗な生花がそなえられていました。
2022年から思い返すと、おそらく、もう10年以上も前のことです。しかし、妙に記憶に残り続けていました。もう一度いってみたいと思い続けていましたが、その場所がどこなのか、どんな石仏が祀られていたのかも細部まで覚えておらず、そのままになっていました。
昔の写真を見返していたとき、偶然にも、その石仏の写真を見つけることができました。しかも、当時、訪れたとき、その場所の座標値も写真に収めていました。
訪れたのは、2011年7月13日のことです。この情報をもとに、2022年5月22日に石仏を再訪しました。
地図で調べてみると、座標値の場所は、大分県豊後高田市の田染(たしぶ)という地区だということがわかりました。大分県道34号線から脇道にはいった場所に、石仏の祀られている地点があります。
下の地図でいえば、中心の赤点部分です。鍋山摩崖仏から南西へ約350mいった場所です。
地図の中央部を走っている川は桂川(かつらがわ)です。黄色で示されている道路は県道34号線です。県道から脇道に入り、橋をわたってすぐの場所に目指す地点があります。
↓下の写真は橋を渡るまえの道路風景です。車一台がやっと通れるほどの道幅です。
橋を渡る直前の道路には地下水がしみだしてきており、水浸しになっています。
↓橋をわたって、森の中をはしる舗装道になります。
橋をわたりきって60mほど道を歩いていくと、左側に石段をみつけることができました↓。写真はふりかえって撮ったものなので、石段が右側にみえています。
十数段の短い階段をのぼると、石仏が納められている岩窟がみえてきます。
↓2011年に訪れたときと同様、美しい状態で岩窟・石仏ともに残っていました。
しかも、現在もかわらず、仏前には生花が供えられていました。
場所:大分県豊後高田市田染平野
座標値:33.498338,131.526635
岩窟の中央に納められている石仏は、その姿から「地蔵菩薩」のように見えます。あるいは、国東半島各所でまつられている弘法大師像かもしれません。
わたしが初めてここを訪れてから10年以上経過した現在でも、変わらず大事にまつられていることに驚き、感動を覚えました。この付近の集落のどなたかが、信仰をつづけていらっしゃるのでしょう。
主尊のまわりには、数体の小さな石仏が祀られています。これらの小さな石仏も主尊と同様に、それぞれの石仏専用につくられた岸壁の穴のなかに納められています。
ふところの深い国東半島の自然と、そのなかに溶け込む素朴な信仰が、心に癒しをあたえてくれます。