大分県国東半島で行なわれる修正鬼会(しゅじょうおにえ)。その鬼会で登場する鬼の特徴を整理するとき、天念寺のある西側と、成仏寺・岩戸寺がある東側とに分ける必要があります。
さらに鬼は鬼でもこれも大きく分けて二つの名前で呼ばれるそうです。鈴鬼と荒鬼の二つです。もっと細かく言うと荒鬼もさらに三つの鬼(災払鬼、荒鬼、鎮鬼)に分類されるようです。ちょっと図で整理してみたいと思います。
それぞれの鬼を写真で合わせてみると以下のようになります。
鈴鬼(すずおに)↓
災払鬼(さやはらいおに:赤鬼)↓
荒鬼(あらおに:黒鬼)↓
もうひとりの鬼である鎮鬼(しずめおに)は、私は実際に見たことがなく他サイトの説明によると「幾何学模様が特徴的な黒い面(参照)」なのだそう。国東半島の東側…成仏寺と岩戸寺の修正鬼会で見ることができます。
東西でその鬼の外見がだいぶ違うようです。上の写真でご紹介した鬼は西側の天念寺での鬼です。東側の成仏寺、岩戸寺の鬼は天念寺のようにはっきりと赤・黒とわかる衣装を身に着けていません。共通しているのは全身を縄で縛られていることでしょうか。
鈴鬼の概要
鈴鬼、災払鬼、荒鬼、鎮鬼の4種の鬼のうち今回は鈴鬼について調べてみました。外見からは鬼らしくないのに、どうして鬼と呼ばれるのか?興味を持ったからです。
↓こちらの表からもわかる通り、どの寺院の修正鬼会でも鈴鬼は登場します。それもそのはず、鈴鬼はほかの鬼たちを呼ぶ役割をもっているからです。
↑この表の上から下へ向かって登場する鬼たちの順番となっています。鈴鬼が登場し、鬼マネキという法舞が行なわれなければ他の鬼たちは登場できないことになっているそうです(参照:修正鬼会に現れる鈴鬼 小山喜美子)。
天念寺の修正鬼会のなかで、たしか「鈴鬼はご先祖様の霊である」ことを僧侶が説明してくれていたように記憶しています。私はこれから始まる荒鬼や災払鬼の登場のほうに気持ちが囚われていて熱心に僧侶の説明を聞いていませんでした。そんなうろ覚え状態なので、僧侶の説明を裏付けるような情報はないかしらべてみました。しかし、ネット上ではそのような情報は載っいません。もっと真剣に聞いてればよかった…もしかしたらどこか古い書物には載っているのかもしれません。
鈴鬼の法舞 どんな舞をするのか?
修正鬼会に現れる鈴鬼 小山喜美子によると、鈴鬼の法舞は”九手秘伝の作法”があり、最後に”鬼マネキ”が行なわれるのだそう。
10種の鈴鬼の舞については『国東半島の修正鬼会』「天念寺」の項に説明があるといいます。
一、ミヤワセ、テトンボ
二、ヒドコマネキ、テトンボ
三、ミアワセ、テトンボ
四、ハシラヨセ、テトンボ
五、オガミマネキ、テトンボ
六、コンゴウレイカケ、テトンボ
七、ウチワカケ、テトンボ
八、ウシロムキ、マエムキ、テトンボ
九、ケカヤシ、テトンボ
十、鬼マネキ(テトンボナシ)
実際、鈴鬼の舞を見てみるとその所作は複雑で、覚えるのがとても大変そうに見えます。
実際、鬼役の中で動作が一番難しいのが鈴鬼で、僧侶のなかでも鬼会の流れに詳しい長老が勤める役なんだそう。逆に荒鬼はダイナミックな動きが必要とされ、若い僧侶が勤める役ということです。
鈴鬼の別名
『国東半島の修正鬼会』「天念寺」の項には、男の鈴鬼を”若宮”、女の鈴鬼を”若姫”とも呼ぶと記されているそうです。
どうして鈴鬼は鈴を持っているのか?
結論から言うと、本来目に見えない鬼の存在を示すのに用いられるのが鈴ということです(修正鬼会に現れる鈴鬼 小山喜美子)。同論文では、全国の事例をあげてわかりやすく説明してくれています。そのひとつが兵庫県の書写山円教寺。円教寺では修正会にて暗闇のなかで鬼が踊っているという。その際、赤鬼が鈴を手にし絶えずその鈴を振り続けている。
その他、兵庫県姫路市の随願寺、兵庫県神崎郡福崎町の神積寺などでも鈴を持つ鬼の舞があるということで、暗闇の中で鈴をならしその存在を示す鬼の例が挙げられています。
これらの例で挙げられた鬼は暗闇で鈴を鳴らし舞う一方、国東半島の修正鬼会の鈴鬼はお堂のなかから一歩も外には出ません。
・村に出て人前にその姿をさらさないという点
・鈴の音のみで自身の存在をアピールするという点
この二点で、どの鬼にも共通点があると小山氏は考えています。目に見えないものの存在…つまり神仏…を示すものが鈴ということです。
鬼会で使われるたったひとつの道具を調べてみても、いろんなことがわかってくるのでさらに鬼会に対しての興味がわいてきます。